ayakonoheya’s diary

日々のことを、ありのままに

大学時代の記憶

段ボールの整理をしていたら、懐かしい写真が出てきた。

1997年 日本大学芸術学部 所沢キャンパスでの一枚だ。

写真学科のユウゴくんが撮影し、A4サイズ・モノクロでプリントしてくれたものだ。

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あのときは「私が写ってる、ありがとう」くらいにしか思わなかったけれど、10年近く写真を学んできた今、この何気ない一枚がいかに上手いかがわかる。

 

奥行きのある構図、さっと撮ったものにも関わらず、水平・垂直がきっちりとれていて、被写体の私にも動きがある。

声をかけられて振り返ったら、カメラを構えたユウゴくんがいたんだっけ・・・?

撮られたことは覚えているが、詳細が思い出せない。

 

ユウゴくんとの出会いは、大学に入ったばかりの4月。一般教養の授業だった。

私は「お隣いいですか?」と、ユウゴくんの隣に座った。

ユウゴくんはとてもきれいな顔をしていた。

いかにも「モテます!」というような感じではなく、自分の恵まれたルックスについて全く無自覚な、そんなタイプの男の子だった。チューリップハットに無地のTシャツ、かばんはリュック。服装もこだわりがない風に見えた。

 

授業が終わった後、彼は新宿に写真展を見に行くと言った。

4月。友達を作りたいなと思っていた私は「一緒に行ってもいい?」と、ユウゴくんと西武新宿線に乗った。

 

電車の中で、彼はずっと小説の話をしていた。彼の声は電車の音にかき消され、4割くらいは聞き取れなかったのだけれど、私はずっと目を見て「うん、うん」と頷いていた。「えっ?何て言った?」と聞き直すより、ある程度聞こえなくても、彼に気持ちよくしゃべってもらう方が大事だと思ったから。

 

受験勉強しかしてこなかった私は、高校時代に本を読む習慣がなかった。そんなことをしている時間があったら、1つでも多くの英単語を覚え、1つでも多くの問題を解くことが重要だった。でも日大の高校から推薦であがってきたというユウゴくんは、多感な時期にたくさん読書をしてきたようだった。

 

彼が話題にした本「檸檬」と「布団」というタイトルだけ覚えている。ユウゴくんは「布団」は、本当にどうしようもない話なんだけど・・・と、いうようなことを笑いながら言っていた。

 

田山花袋の「布団」。物書きの主人公が女弟子に恋をし、寝巻きの匂いを嗅ぐというようなセンセーショナルな内容で、私小説の出発点ともされる作品だ。

 

新宿に到着し、私たちは2つの写真展をハシゴした。都会育ちの彼はごちゃごちゃとした新宿の街を難なく歩き、迷わず会場に誘ってくれた。1つ目に見た写真展の方が良かったね、という点で一致したことを覚えている。

 

ユウゴくんは写真学科、私は放送学科。学科も所属するサークルも違ったから、その後それほど親しくはならなかったけれど、食堂で会ったりするとちょこちょこ話した。

 

友人に誘われて、彼が所属する音楽サークルのライブに行ったとき、彼は何か楽器を演奏していたように思う。ライブ後、出演者がお客さんを見送る時、私の顔を見つけたユウゴくんは「早く帰りなさい」とふざけ半分に言い、私の頭をポンとしてきた。

 

「見に来てくれてありがとう」ではなく、「早く帰りなさい」

 

一緒にいた友達は「親しいね、アヤちゃんのこと好きなんじゃない?」と茶化し、私は「そんなことないと思うけど・・・」と少し照れた。

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ユウゴ君はいま、何をしているんだろうと思う。本名を覚えているから、検索してみることもある。でも驚くほどヒットしない。インターネット上のどこにも…。彼の名前とともに「写真」とか、思いつくワードを入れても、まったく出てこない。もはや私の本名の記憶が間違っているのだろうか、と思うほどに彼を見つけられないのだ。

 

自己顕示欲がない彼は、今でもSNSなどに縛られずに、マイペースに生きているのだろうか。思い出がきれいすぎることが、逆に居心地悪い。幻滅するようなことになってもいいから、私は今のユウゴくんに会いたい―