しあわせが全身から溢れていた。
2年ぶりに会った彼女は1児のママになり、大きな個展を開催し、笑顔で私を迎えてくれた。
中 乃波木(なか のはぎ)ちゃん。
仕事を通して2年前に知り合った尊敬すべき友人だ。
今回「読む写真展」という新しい試みに挑戦していた。
彼女が書いた小説の世界を写真でも見せていく、というものだった。
会場では年下の旦那様が、心から楽しそうに彼女をサポートしていた。
写真と文章のほかに、可愛らしい絵も散りばめられていた。
「あの絵はどなたが描いたんですか?」と聞くと、「あれは乃波木さんが描いたんですよ。可愛いですよね」と答えてくれた。
妻を「さん」付けで呼ぶ彼も、若くして画家として成功を収めている逸材だ。
彼女を尊敬し、愛していることがその一言から伝わった。
乃波木ちゃんはSNSで個展をPRしていた。
SNSにはちらりと会場の様子が写っていたのだが、それを見たときからとんでもない規模の個展だとわかった。内容も濃いし、展示もプロが携わっていると一目でわかった。
「出産を終えたばかりで、どうしてここまでのことが出来たの・・・?」
私は聞きたかったことをまっすぐ彼女にぶつけてみた。
「話がきたときは、出産したばかりでそれどころじゃないし断ろうと思っていたの。でも彼の(旦那様の)『できるよ』という一言に後押しされてやろうと思えたの。早々に『私は無理、おまかせする!』というスタンスを見せておけば、まわりが動いてくれるのよ」そう言って乃波木ちゃんは笑った。
実際に写真の選定や展示は、画家である旦那さんが仕切ったそうだ。
イラストのパネルは、彼女が渡した素材をもとに学芸員が色々作ってくれたのだという。
うるさいことを言わずにまかせておくことで、まわりが生き生きと動いてくれたそうだ。
「つまり乃波木ちゃんは『素材』を提出したということ?」
「そうそう。私は素材係!」
もちろん素材(作品)が一番大切だ。素材の力があってこその個展だ。
でも個展を開催するには、「見せ方」という別の一面も重要になってくる。
どの写真を選ぶか、どんな風に展示するか、どこに何を配置するか、動線をどうするか。
料理の仕方次第で、素材は輝くこともあれば逆に輝きを失うこともある。
「素材」×「展示」=個展
個展の成功には、作品を作るまっすぐなライオンの目と、作品を見せる視野が広いシマウマの目。両方の目が必要なのだ。素材:展示。私の持論では6:4くらいの比重だと思っている。その4の部分を信頼出来る人にまかせられるというのは大きい。
会場では1歳になる息子さんが、愛想よく来場者を迎えていた。
「毎日幸せなの。幸せすぎて、もう誰にも幸せと言わなくてもいいの」
乃波木ちゃんがやわらかい笑顔でそう話す。
確かに彼女のSNSには、必要最低限の告知しかされていない。
「子育てでこんなことがあった」「旦那さんがこんなことをしてくれた」
そんな書き込みは一切見られない。
幸せと発信しなくていいほどの幸せ―
シンプルだけれど重すぎる言葉に、私は圧倒された。
今の時代、これはある意味すごいことだ。
誰かに報告するための幸せではなく、自分の中で噛み締める幸せ。
「旦那さんから花束をプレゼントされた」「彼にやさしい言葉をかけてもらった」
そう発信する人ほど、実はさみしいのかもしれない。
SNSだけ妙に華やかな人っている。
蓋を開けたら、心はぼろぼろだという知人や芸能人も確かにいる。
きっと誰かに「すごいね」って言ってもらいたくて、過度に発信してしまうのだろう。
乃波木ちゃんの個展は、能登で育った彼女ならではの視点で溢れていた。
文章が書けて、写真が撮れて、絵まで描けてしまう。
そのどれもがすごすぎるレベルで、彼女の表現したいことを形作っている。
すごいね、乃波木ちゃん。
愛に包まれた世界、会場で見たい人はぜひ。会期終了が迫っています。今週末にでも!
野々市市市制施行10周年記念「中 乃波木 読む写真展-い~じ~大波小波の世界-」
学びの杜ののいちカレード
10月19日(火)まで 9:00~19:00 水曜休館 入場無料