ayakonoheya’s diary

日々のことを、ありのままに

異動までの日々 ⑧母と大激突期

2週間に1日は「泥になる日」が欲しい。

「泥」とは何か。その名の通り、泥のように地面(ベッドかソファー)と一体化し、仕事のことも、人間関係のことも忘れ、日々のルーティーンさえも崩して、ひたすらアホみたいにぼーっとする日のことである。

 

昔、実家でこれをやっていたときは家族に心配され鬱陶しかった。「具合でも悪いのか?」と聞かれ頭にきた。「今、非常に楽しいんだ!」と、やけくそになって答えた。

 

私は普段は全力で生きているので、2週間に1回だけはひたすら泥になりたい。口をあけてテレビを見て、そのまま惰眠をむさぼり、おなかが空いたときに好きなものを食べ、誰に気を使うこともなく、格好つけることもなく過ごす1日。翌日からしゃきっとするために、そんな日が欲しいのだ。

 

3月14日(日)正午。ちょうど異動の正式発表があった1日(月)から2週間目。買うべき家具などはすべて買い揃え、3日後に最後の特集を控えていたこの日。私は泥になりたい日だった。ソファでぐでっとしているところに、隣の部屋の母がどやどややってきた。この人はすごく元気だ。私の異動に合わせて、何か自分にできることはないかと一生懸命やってくれている。

 

「この前卵入れたタッパー返して。あんたにタッパー渡すとなかなか返ってこん」

「富山行く前にタイヤ交換せんなんよ」「水道代と電気代の引き落としの手続きもね」

「部屋のきれいな写真いつ撮る?プリントアウトしてほしいげんけど」など、「何する?どうする?いつする?」というテンションでぐいぐい訪れたのだ。

 

あなたは無職で元気かもしれないが、私にはやってもやっても追いつかないほどのToDoリストが立ちはだかっているのだ。

新しい職場に行くためのセキュリティテスト、パスワード更新、メール設定、名刺注文。特集の編集をして、テロップを発注して、今担当している業務を後輩に引き継ぐ。上司に相談しないと進まない悩ましい事案も抱えていた。引っ越しの準備に、家具・家電の購入。頭もお金も莫大に使って、きょうこそは泥デーだと思っているところに、不躾にやってきたのだ。

 

まあどかどかやって来るのはいいのだが、私が引っかかっていたのは、きのうフランフランで買い物中に発した母の一言だ。母は「ねぇねぇ2020年のフォトブックほしい~。いつできるん?本当にできるん?」と言ったのだ。

 

私たちは1年に1冊ずつ、家族の行事や出来事などをフォトブックにまとめているのだが、だいたいのデータは私の携帯かパソコンに入っている。データだけでも母に渡せば、母はコツコツ編集するのだろうが、データは取捨選択して渡したかったので、去年の分が渡せていなかったのだ。それにしてもこのタイミングで・・・!?

私もその場で「今は忙しいよ」と言えばよかったものの、「あぁ、フォトブックが欲しいのか。それなら2020年分の写真整理をしなくちゃいけないんだなぁ」と、ひとつToDoリストを増やし、その言葉を飲み込んだのだ。

 

母がやってきたとき、私はソファでくつろいでいるように見えて、実は携帯の写真の整理をしていたのだ。本当は泥になりたかったけれど、写真の整理をしてデータを母に渡せるところまで追い込もう、としていたところだったのだ。

 

そこに、タッパー返せだの、タイヤ交換しろだの、なんだかんだと言ってくるので、もういよいよ我慢の限界に来た。

 

「おかん!おかしいんじゃない!?きのうフォトブック欲しいっていうから、私、この激務の中おかんのために写真の整理しとってんよ。そこにタッパーだ、タイヤだなんてうるさすぎる。空気と状況を見てモノを言ってもらわないと、私、知恵熱でそう!」と叫び罵った。

 

母は「フォトブック欲しいとは言ったけど、今欲しいなんて一言も言ってないわいね。富山に行ってから作ってねという意味やったんや。今、データが欲しいなんてそんなこと毛頭思ってない。今はあんたがしたいこと、せんなんことをすればいい」と言ってきた。

 

「じゃあ、そんな紛らわしいこと口にしないでほしい。考えなしに思ったことをそのまま口にするから、おかんは友達がいないんじゃないか!」

 

言い合いは泥沼の様相を見せ始めた。

 

解決しないまま、母はスポーツジムに行った。

私は1ミリも何もしたくなかったのだが、どうせ気が立っていて気持ちよく泥になれないのならと、タイヤ交換に行き、水道代・電気代の引き落とし手続きの書類を書いた。

 

本当にこの日、私は泥にならなくちゃいけないくらい疲れていたのだ。

 

母には「もうどかどか入ってこないでください。ペースが乱されます。何かしたいときはLINEでアポをとってください」とLINEし、「わかった。ごめん。これからはそうする」と返事が来てこの日は終わった。

 

異動までの日々⑨に続く