白えびのお客様
ケーブルテレビが好きだ。地元の情報をぐりぐり掘り下げてくれる。
先週はラーメン・焼きそば特集を放送していた。何の気なしに見ていたのだが、その中のひとつ、「ラーメン一心」の白えびラーメンに釘付けになった。
一心というお店は、確かに人気のラーメン屋さんだ。いつも行列ができている。
昔、東京からのお客さんをランチにお連れしたら、彼らは翌日新幹線に乗る前に、もう一度食べ収めに行ったくらいである。
コク旨醤油、あっさり煮干し、越後の味噌、辛味噌、まぜそばがあるが、コク旨醤油が一番の人気だ。
さて、白えびラーメンだが、ケーブルテレビの映像を見て度肝を抜かれた。
スープにはもちろん大量の白えびが入れられ、煮込まれている。
それだけではない。香味油にもこれでもかというくらい白えびが使われていた。
スープと香味油の両方から白エビを感じられるなんて、とんでもないと思った。
観光客用に、普通のラーメンに白えびをちろちろっとトッピングした、という代物ではない。
白えびってまあまあ高価なものなのだけれど、惜しみない量を使っているのが画面からわかった。
12月中の期間限定と聞いて焦る。白えびがなくなったら、販売を終了するらしい。
白えびよ、まだいてください。私を待っていてください。
私はテレビを見た翌日、すぐに一心に向かった。
しかし、券売機の「白えびラーメン」ところだけに「申し訳ありません!スープ作りが追いついていません。夕方からは提供できます」と書いてある。
券売機のそばでは、女性の店員さんがてきぱきとお客さんの名前を聞いたり、席に案内したりしていた。名前を聞かれた私は「きょうは白えびラーメンが食べたかったんですぅ。また来ます」と言って店を出た。
夕方行こうかなとも思ったが、その夜は大寒波がくるということで、寄り道せずに帰ることにした。
翌朝、富山市の平野部で初の積雪となった。私は朝から雪取材に追われ、体も冷えていた。午前10時半ごろ、店に電話をしてみる。男性が出た。
「きょうのランチタイム、白えびラーメンあります?」「はい!ありますよ」
心が決まった。私は昼ニュースをチェックした後、再び徒歩で一心に向かった。
券売機に並んでいると、女性の店員さんから「あ、白えびの・・・」と言われる。
ぎゃあ。私が白えびラーメンを狙ってきたことがばれている。
思い当たることとすれば・・・
きのう「また来ます」と言った私の顔を覚えていたのだろう。
しかし常に7~8組待っている大繁盛店で、きのうちらっと来た私のことを覚えているのだろうか。マスクもしているし、きのうと服装も違うのに。
だとすればさっきの電話も、私からの電話と悟られている気がする。
男性(店主かな…?)が、「白えびラーメンの問い合わせがあった」と女性店員に伝え、彼女は「きのうのあの人だろう」と、私のことを思い浮かべたかもしれない。
「強烈に白えびラーメンを求めてやってきたお客様」と認識された私は、券売機で白えびラーメン980円の食券を買った後、小雪が舞う外のベンチで順番が呼ばれるのを待った。
名前が呼ばれ、カウンター席に案内される。
となりのお客さんは醤油ラーメンのようだ。
ラーメンの前に、「スダチ生姜」なる小皿が提供される。
「最後の方にスープに入れて味変を楽しんでください。さっぱりしますから」と言われる。
そしてお待ちかねの白えびラーメン。スープは透き通っていてとてもきれい。
が、一口飲んだ瞬間、口の中が白エビパラダイスになる。
エビ、エビ、エビ・・・。
こんなにおとなしい顔をしているスープに、甲殻類のうま味、香ばしさが溶け出している。ふわぁ・・・おいしい・・・!
麺は中太でつるっとした食感。上品な「和」の世界が広がっていくイメージ。
ここで第1の味変。
スープに浮かんでいるのは、味噌とえびの粉から作った「えび団子」である。
これをそろそろと溶かしてみる。
ふわぁ・・・。コクが深まる。
そして第2の味変。
「スダチ生姜」である。
これもそろそろと溶かしてみる。
ふわぁ・・・。確かにさわやか。
しかし白えびのスープがしっかりしているので、最後まで基本の味はぶれずに楽しめた。最後にまったく違う味になったら嫌だなと思ったけれど、白えびは負けなかった。
めったにないことだが、私はスープをすべて飲み干した。
女性店員さんが私に声をかけてきた。「いかがでした?」
「美味しかったです。スープ、飲み干しちゃいました」
私は、空になったどんぶりを得意げに見せた。
どんぶりの底には「ありがとう 一心」と書かれていた。
夕方の全国ニュースでは、私が自宅から徒歩通勤する様子が映し出されていた。
朝起きて思いついて、スマホで撮った映像だ。おお・・・。採用されている。
自撮り棒がないので、自撮りの顔がアップ過ぎて驚く。
スマホで見ていた時はこれでいいわと思っていたが、テレビ画面の半分が自分の顔に占められ「わぁ!私、デカイな!!」と驚く。近々自撮り棒を購入しようと心に誓う。
さて、あす19日(日)は、私の一番好きな番組M―1グランプリだ。
お笑い×人生変わる本気の戦い×生放送という、ドキドキなエッセンスが詰まっている。敗者復活戦からじっくりと見よう。
きょうも濃い一日だった。
白えびのお客様は、ベッドに入って1分後にかくっと眠りに落ちた。