ayakonoheya’s diary

日々のことを、ありのままに

大嫌いな姫女(ひめおんな)

その人のスーツの着こなしは別格である。

ファッションに明るくない私が見ても、一目で「イイモノ」だとわかる。
今は量販店のスーツもすごくモノがいいし、みなさんきれいに着こなしている。
が、やはり15万円クラスのブランド物は「やっぱり違うな」と思う仕立てである。

 

彼はそうしたクラスのスーツをいつもさらりと着こなしている。
「これくらいしか(ファッションくらいしか)楽しみがないので」と言いながら。
コーディネートされたシャツやネクタイを見ても、美しくてため息が出る。

 

「素敵ですね。いつも」

「中田さんの方が、華やかで、都会的。お姫様っぽい。」

「!!!!!!!!!!」

褒めの10倍返しである。


お姫様、お姫様、お姫様・・・
初めて言われた言葉を反芻して、私は膝から崩れ落ちそうになった。
思えば私の会社員人生は、それと対極にあったと言わざるを得ない。

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お姫さまっぽい挿絵を探していたら出てきた 2010年ロケで撮影 ドレスも髪形も古めだ…

どの年代でも、どの業界でも、「姫扱いされる女」というのは存在する。
みんながその子の言動に一喜一憂し、みんながその子の笑顔ほしさに媚びへつらい、みんながその子の機嫌をとろうと顔色をうかがう。
はっきり言おう。大嫌いなタイプだ。

 

そんな女たちは至る所にはびこっているのだが、その最たる例を見たことがある。
彼女は鬱だか何だかで、長期間会社を休んでいた。にも関わらず、その間に男性と旅行をしていた。SNSか何かでばれたらしい。

 

私からすればけしからん女なのだが、上司も、先輩も、友人も、みんな彼女には何も言えないようだった。そんな空気感だった。
ある会合で彼女を見たが、周りの女性が彼女のことを「姫」と呼んでいたのには驚いた。姫は、「姫」と呼ばれることに何の抵抗もない様子で酒を飲み、料理を食べ、その場で一番偉いかのように振る舞っていた。

 

ぐがーーーーー!
私は心の中でゴジラのように火を噴いた。

 

死んでも「姫」と呼ぶものかと思った。それが、病気だろうが鬱だろうが点滴を打って会社に出向き、誰にもやさしくされないまま仕事を続け、ここまでのし上がってきた私のプライドだ。何かあれば苗字にさんをつけて呼ぼうと思っていたが、存在自体に嫌悪感を抱き、言葉を交わすこともなかった。

 

こうした威圧感タイプの姫もいれば、周りが放っておかないふんわりタイプの姫もいる。
ふんわりタイプの姫は、自分が可愛がられていることをよーく分かっている。

キュートな容姿、抜けている言動、ひがみ根性がないので性格は割といい。

人が汗水たらして敷いたレールの上をきれいなヒールで歩き、うふふと笑うだけで褒められる。

 

ぐがーーーーー!!
もうキングキドラになるしかない。

 

まあ何にせよ、私は「姫」なんて呼ばれたことがない。姫扱いの経験も皆無だ。
先輩・上司からは苗字を呼び捨てにされ、後輩やスタッフからは「なかっさん」というドダサい呼ばれ方をしている。(※気に入っているのでこのままでいいのだが…)

「中田さん」を呼びやすくしたら「なかっさん」になる。当たり前のように受け入れていたが、誰がはじめにこう呼んだのだろう。まったくエレガントさがない。「姫」からは大きくかけ離れている。

 

気のおけない女友達と話すとき「なんか私の人生、うま味がないんだよね」と言うことが多かった。
「うま味ねぇ・・・」友達はあまりピンときていないようだった。
そう。私は長年「うま味がない」という表現をしてきたが、それはつまり姫扱いされず、私の顔色を気にする人もおらず、なんか人生損しているような気がする、ということを言いたかったのかもしれない。

 

そんな私が43年間生きてきて初めて「お姫様っぽい」と言われた。
「華やかで都会的」という枕詞付きである。
その相手が、15万円のスーツを着こなす物静かでクレバーな男性だった。

興奮と喜びからくる大量の鼻血出血により、倒れる一歩手前である。

 

泥水をすする思いで仕事をしてきてよかった。
理不尽に怒られ、雑に扱われ、姫女(ひめおんな)に心の中で火を噴きながらも、真面目に生きてきてよかった。


なかっさんは今、幸せだ。

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泥水ディレクターなかっさん 唯一のお姫様ロケ 2010年1月(32歳)

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このとき着せてもらっておいてよかった…これで気が済み、本番がないまま今に至る―