引っ越し騒動 VOL①~荷詰めに煮詰まる~
夜逃げでもないのに、夜に引っ越しをするなんて人生で初めてだった。
引っ越しとは、朝一にトラックが来て荷物を運び出し、午後からは荷物を運び入れ、新たな住まいづくりに取り掛かるものだと思っていた。
前日に引っ越しの時刻が告げられることになっていたのだが、予想外の時刻だった。
母のところに午後3時、そして私のところに午後4時にトラックが来て荷詰めを始めるというものだった。「あ、そんなに遅いんだ」というのが第一印象だった。
基本的に荷物のほとんどは新居に運び込んでもらうのだが、新居には入らないが捨てるにはしのびない家具(本棚、ワゴンなど)は、実家に運んでもらうことにしていた。そして元カレの大荷物、入ると幸せになる甕(※我々は「かめぼう」と呼んでいた)は、元カレの実家に持って行ってもらうことになっていた。
アーク引越センターの見積もり担当者は14万7500円という金額を提示し、我々はそれに同意した。母が6万、私が6万、かめぼうが2万7500円という算出だった。
数週間前から荷物の詰め込みをしているのだけれど、思ったようには進まなかった。
新居にいらないものは持っていきたくないから、厳正にモノの審査をし分類をしていくと、まあまあ時間がかかった。生活用品も洋服も直前まで使うので、すべて箱に入れるわけにもいかない。また、アルバムやハードディスクやダイヤモンドペンダントなど、絶対に紛失したくないものは、引っ越し業者に任せず自分の手で運び込むことにしていたので、その分別も必要だった。
食器類を新聞紙に包んだり、段ボールを組み立てたり・・・そんなことをしていると、驚くほど手の油分が紙に奪われていった。包んではハンドクリームを塗り、組み立ててはハンドクリームを塗り、の繰り返しだった。
年齢を重ねたのだと実感した。昔は手の油分なんてあり余るほどあった。ハンドクリームいらずのべとべとした手・・・。今思えば若かったのだ。
仕事から帰っての荷詰めは、骨が折れる作業だった。私は「捨てられない族」なので、人より荷物が多い。そして「捨てられない族」は、いらないと判断するまでに時間がかかる。そして寒がりなので部屋が寒いとやる気を失い、「ちょっと布団にくるまるかね・・・」と思って横になると、そのまま眠ってしまうのだった。
「まあ、続きはあすにしよう。まあ、まだ時間はあるさ」などと思っていたら、いよいよ引っ越し当日を迎えてしまった。天気予報は雪。時折吹雪くともいっていた。
私は7時ごろから起きて最後の荷詰めに励んでいた。午後には業者がくる。待ったなしだ。カッサカサの手にハンドクリームを塗りながら、最後の荷詰めを行う。
最後は雑の極みだ。母も言っていた。「最初は丁寧に収納場所別・分類別に詰めていたのに、最後はもうぶち込みや~」と。
大いにわかる。もう何が何だかわからないけど「ぶち込み状態」(笑)
「風鈴とカバン」とか「洗面所&台所用品」とか、「ポットの下・じょうろ」とか意味不明なキャプションが増えていく。ポットの下って・・・。自分でもウケる。
じゃあポットの上はどの箱に入れたんだろう?ポットの下はこの箱に入っているけれど、ポットの上はどこにあるんだ?「台所まわり・油缶など」とか「台所まわり・タッパー」なる箱はあるけれど、「ポット」と書かれた箱はない。「フライパンなど」と書かれたあの箱がまあまあ怪しい。が、もしかしたら割れないように、タオル類の中にぶちこんだ可能性もある・・・。
こうして当日、尻に火が付いた状態で詰め込んでいたのだが、正午ごろ、段ボールとガムテープがやや足りないことに気づく。母に連絡して段ボールの余りを持ってきてもらい、実家でガムテープを物乞いし、その帰りにコンビニでサンドイッチとヨーグルトドリンクを買って、それを齧りながら頑張った。
あと2時間、あと1時間、あと30分・・・ああ・・・もうすぐ業者が来る。
引っ越し騒動 VOL②へ続く