10年分の日記が消えた VOL④
2019年2月28日(土)晴れ
10年分の日記が消える、というショックに打ちのめされたきのう。
しかし時間は刻々と過ぎ、やるべきことは着々と迫ってくる。
来年2月1日から2週間、僭越ながら写真展をさせてもらえることになった。
ひょんなご縁だったのだが、金沢市大野地区のしょうゆ蔵で初の個展となる。
「やってみませんか?」と声をかけてもらったとき、「はい!」と即レスした。
マスコミで働いていると特に思うのだが、取材などのオファーに即レスしてくださる人は本当にありがたい。「イエス」が一番うれしいが、「ノー」なら「ノー」もありだ。
「考えさせてください」が実は一番困る。
他をあたれないまま時間だけが過ぎていくし、考えた結果「ノー」だった場合、
また1から代替案を練り直さなくてはいけない。取材や編集スケジュールがタイトになってくるし、オンエア日は迫ってくるし、もろもろ大変になるのだ。
だから、私は逆の立場になったとき「イエス」か「ノー」かをさっと答えるように心がけている。
「個展」と聞いたときは「荷が重いかも」と思わなくもなかったのだが、「喜んで!」と即レスした。「やる」と決めたら、やるだけだ。
しかし元気に返事はしたものの、やはりわからないことが山のように出てきた。
展示の方法、プリントの大きさ、キャプションの書き方、空間をどのように使ってよいのか?などなど。年明け前にイメージを固めたかったので、展示会場の下見に行くことに。
約束の時間は午後4時。少し早めに出て近くを散歩する。と、導かれるようにある森にいざなわれた。長年金沢に住んでいるのに、こんな場所があったなんて知らなかった。空気がよく、見晴らしがよく、人がほとんどいない。まるで秘密の森だ。
10年分の日記を失い意気消沈していた私だが、もう一度ここから頑張って表現していこうと思えてきた。新しい世界の扉を開けよう。
澄んだ空気を吸った後、展示現場に行く。最大で30点ほど展示できるのだが、私はその空間をフルに使いたいと思っていた。個展が決まってから、何かの展覧会に行くときはお客さんとしてではなく、開催する側の目線で見るようになった。
するとこれまで何気なく見てきた展覧会には、作家それぞれの思いや工夫が詰まり、
それなりにお金もかかっているのだと思い知った。
プロに聞けば、やはり額は高価だという。ギャラリーを使う場合はそのギャラリーの額を貸してもらえることもあるが、素人だと難しい。レンタルもあるが、額が自分のものにならない割にはお金がかかるという。薄い発泡スチロールにプリントを張り付ける「貼りパネ」という手法が一番現実的だと聞き、貼りパネのテストプリントをもって現場に行く。
しかし、実際に展示してみると、発砲スチロールが軽くてぷらぷら漂う。
ワイヤーとの相性も悪い。おもりをつけたり、ワイヤーをひもに変えたりして落ち着きどころを探っていく。何とかプラプラしない落ちつきどころを見つけたのだが、
「そもそもこの空間に貼りパネだと作品が貧相に見えるよね」ということに気づき、振り出しに戻る。すでに展示してある作品は、額があることで作品がぐっと引き立っており、額の大切さを思い知る。
結局「安くてもいいから額を見つけよう」という結論に至り、第1回下見会は終わった。
その足で100円ショップに行ってみたら、イメージ以上の良い額が販売されていた。枠は白と黒。1つ200円。思ったよりずーっと安い。本気の額は1つ5000円以上するものもある。それを30枚分買うなんて現実的ではないと思っていたが、200円なら飛びつこう。そんなにちゃちにも見えない。1つのショップでは数がそろわなかったので、ダイソーを2つはしごし、28枚購入した。ワイヤー用の釣り糸も。合わせて6270円。
額が手に入ったので、これからぼちぼち中身やキャプションを考えていこう。
年があけたらあっという間に2月になる。
そういえばこの前の打ち合わせで、イベント当日はトークショーをすると決めたのだった。あとビンゴの司会も。「どうですか?」と言われて、特に人前で話すのが得意でもないくせに「はい、やります」と即レスした。即レスはしたもののやや不安もあり、生島ヒロシの「口下手な人のためのスピーチ術」という本を買い、電車での移動中に読んでいた。
「何読んでるんですか?」と可愛いリポーターちゃんに聞かれ、「実はさ、話すの別に得意じゃないのにトークショーやらビンゴ大会の司会やらを受けてしまって。生島ヒロシ大先生の本で勉強しておこうかなと思って」と答えた。リポーターちゃんは「こういう本って、逆に口下手じゃない人が読むんですね。ふふふ」と笑っていた。