10年分の日記が消えた VOL⑤
2019.12.29(日)くもり
10年分の日記が消えたことで、ふと思い出した人がいた。
今年、初の個展を開催し大成功をおさめたアマチュア写真家山田利郎さん(71)だ。山田利郎さんはあの写真展のトークショーで「ここに展示されているのは2012年~2016年までに撮った2万カットの中から選んだ112点です。それ以前の作品はパソコンのクラッシュでなくなりました」と話していた。
写真データが消える・・・考えただけでぞっとする。
私はたまらず山田さんにメッセージを送った。
「実は10年分の日記を失ってショックを受けています。山田さんはいつからいつまでの写真?データ?を失われたのでしょうか?差し支えなければ教えてほしいです。そしてそのショックをどう乗り越えたかも・・・」と。
山田さんからすぐに返信が来た「もうなんでもかんでも忘れてしまうので一度思い返してみます。写真に関しては初期の2~3年分。印象に残っているのは少ないので救われています。1番困ったのは父親の香典帳です」と。
そんなに絶望していない感じが文面から読み取れた。写真データより香典帳のようだ・・・。
妹からは「お姉がどれだけ文章にこだわりがあり、残しておきたいと思っていたものかよくよく分かるから、私もとにかくびっくりして心が痛むよ。一般的には15日が締め切りだったかもしれないけど、まだサーバー上で残っているなら手段がありそうな気がして・・・年明け電話かメールしてみたら。データがあるなら熱意が伝わればなんとかなるんじゃないかと」と、具体的なアドバイスつきのお見舞いラインが来た。
妹は私が大事にしているもの、こだわり、許せないこと、などなど・・・私の心の機微を、この世の中で1番理解してくれている人間だ。
的を射たことを言うし、下手に私を刺激しない術も身に着けている。慎重で、現実的で、やさしいので、どうしようもないときは彼女の意見を聞いてみたくなる。
そんな妹と対照的なのが母だ。「あんた、なんか日記が消えたんやって?衝撃受けとるようやけど。そもそもそんなモン書かないかんの?消えたら大変なん??」と言ってきた。
ふう・・・この人はこういう人なのだ。思ったこと、感じたことをそのまま発言するため、職場でも喧嘩になったり、仲間外れにされたりしてきたようだ。
私もこの人から生まれてきたから許しているのだが、血のつながりがなければ友達にはなっていなかっただろう。悪気はないのだが、いらんことを言って人をイラつかせる。こういう人は娑婆にいるものだが、それがたまたま私の母なのだ。
「もういいよその話は。おかんと話してもどうなるもんでもないし。もうほじくり返さんといて」と言って終わった。
そして私と同じくショックを受けているCちゃんからのライン。
「喜び、怒り、悲しみ 色々書き記した日々を老後に見てニマニマするという楽しみが消えた衝撃は大きいよね。漫画喫茶で夜な夜な書いたあの日記。あのころの、若かったあの頃の思い出が・・・デジタルの弊害をひしひしと感じる出来事やわ。出産のときの
リアルな思いも、もう二度と戻れないのか」
そう。私たちがこの日記を書き始めたのは2007年・29歳のころ。「30手前のギリギリ女の珍道中を綴っていこう!いつかそれを見て笑い合おう」と言っていた。
まだ20代だった私たちは「きれいになりたい」と息巻き、出勤前に岩盤浴に通ったり、当時はやっていたビリーズブートキャンプのDVDを見ながら過酷なトレーニングをこなしたりしてきた。
休みが合えば、神戸、名古屋、ディズニーシーとフットワーク軽く旅行にも出かけた。
また漫画喫茶なるものに2人でハマり、そこで食事をしたり、書き物をしたり。今考えると何てタフなんだろうと思うくらい夜中まで一緒に遊んでいた。
その後彼女は素敵な旦那様と出会い、結婚し、出産し、家を建て、人生のフルコースを味わってきた。私は2011年に富山支局に異動になり、仕事に没頭したり、恋愛を楽しんだりしていた。互いに別の場所で違う人生を歩んでいるのだが、2人だけの日記帳があるから、いつも一緒に頑張っている気がしていた。
そのころの写真が残っていたので、備忘録として添付しておくことにする。
日記と一緒に見られたら最高によかったのだが・・・。残念。
あのときの気持ちは文章では残っていないけれど、彼女は今3人のママとして元気にやっているし、子どもたちもすくすくと育っている。私も今年、ずーーーっと悩んでいたことに区切りをつけ、新たな人生を歩み出す準備ができたばかりだ。私たちも仲良しだし、あの頃から積み上げてきたものは形になってるねと話す。
私は彼女に「10年分の日記が消えたことはショックだったけど、これからは1人になっても日々何か書いていこうと思う」と伝えた。すると彼女は「一緒に続けさせてもらえる?」と言ってきた。驚いた。もうこれに懲りて「日記はやめる」と言うと思っていたから。2人そろって懲りない人種だ。
好奇心が旺盛で、明るくて、前向きで、仕事が早い。一緒にいるとわくわくとする。何かにはまったらガーッと一直線に走り出す感じも2人は似ていて、一緒に走り抜けていくには心地よい唯一無二の友だ。
子育てが始まってからあまり会えていないが、やはり10年間、共犯関係をつづけた友の存在は大きい。今後は共犯日記第2章を書き、老後の楽しみに備えていこうではないか。