自称ストーカーに会いに行く
2022.2.26(土)晴れ
昨年末、心の友ちーちゃんから気になる連絡があった。
「私の親友が、私経由のフェイスブックで絢ちゃんの投稿を見ていて、めっちゃ会ってみたいと申しております~。差し支えなければご紹介したく。彼女も一緒にご飯、またはお茶はいかがかしら~。たぶん仕事ができるオンナ同士、気が合うんじゃないかな~」
こんなことがあるのだろうか。
大変光栄だが、ちーちゃんが「盛って」言っている気もする。話の流れで「フェイスブックにブログアップしている絢ちゃん、私の知り合いだよ。会ってみる~?」みたいな軽い流れだったのではなかろうか。向こうから私に「会いたい」なんて言うだろうか。ちーちゃんは仲人上手だから、人と人を繋げるのが上手なのだ。
それでも嫌な気はしない。「もちろんです!いつもすてきなご縁をつないでいただき、ありがとう!私もお会いしたいです」と返す。
それから年末年始をはさんだり、大雪に見舞われて外出どころじゃなくなったり、オミクロン株が猛威をふるい始めたりと、なかなか会うことが叶わなかった。お誘いから2カ月後、ようやく私に会ってみたいと言ってくれているYちゃんに会いに行くことになった。
Yちゃんはもともとマスコミ業界にいた子でテレビにもよく出ていたので、むしろ私の方がよく知っている。
大きな目、厚い唇がセクシーで、安定感のある落ち着いたナレーションが魅力的な女性だった。年齢は同世代くらいだろうと思う。あのお方が、私に会いたい???
半信半疑だが、土曜日の朝、ちーちゃんと一緒にYちゃんが住む黒部に向かった。
11:30に黒部のカフェで待ち合わせだ。
この日は天気がよく、立山連峰がくっきりと見えた。
雄大な山々を見つめながら、わくわくと緊張が入り混じる。
Yちゃんとの待ち合わせまでに時間があったので、富山大和 黒部サテライトショップなるものに入ってみる。食料品やお持たせ品がメインで、雑貨や婦人服も少し販売されていた。
私はちーちゃん大絶賛の「岐阜栗せんべい ふる里歳時記」なるお菓子を買い、ちーちゃんは「ようかんバイキング」と題されるコーナーで、一口ようかんを見繕っている。バイキングと書いてあるものの、買った個数分だけ値段がかかってくるので、バイキングではない気もする・・・と思ったりする。
11:30。Yちゃんとカフェの駐車場で、ごあいさつ。
「こんな遠くまですみません~。図々しく会いたいなんて言ってしまってすみません。絢ちゃんのブログは本当によく読んでいて、更新されなかったら、まだかなまだかな、と何度も見たりして・・・。異動になったときは、シリーズもので何話も書いてましたよね? 次が読みたくて、次の更新いつよ!?と思ったりもしてて。ちょっと油断してると、シリーズの③とかになってて、慌てて①から読み直したり。ストーカーみたいにチェックしてるんです。あの文章のどこまでが本意で、どんな思いで書いてるのか知りたくて。すごく読ませる文章で、ぐいぐい引き込まれてしまって・・・。絢ちゃんの影響で、私もブログを始めたんです!」とおっしゃるではないか。
ひとことごあいさつしただけで、社交辞令ではない熱を感じた。
Yちゃんは本当に愛読してくれている・・・。
激アツなあいさつもそこそこに、カフェに入る。
パスタランチのドリンクを選ぼうとメニューを見たら「ミルクセーキ」とあった。
ランチドリンクってコーヒーか紅茶か、ジンジャエールかジュースが定番だと思うが、そこに見慣れない「ミルクセーキ」の文字を見つけ、珍しい物飲みたさでそれを選ぶ。ミルクセーキって、もしかしたら人生で初めて飲むかもしれない。
ちーちゃんもYちゃんも「私もそうしよ~!」と、3人ともミルクセーキにした。
とてもおしゃれなお店で、出されるお料理も最高に美味しい。
店内ではご時世柄、ほとんどの人が無言で食べている。
きょうは美味しいものを食べるより、しゃべりたい・・・。
3人の思いは一致している。
しかしマナーは守らねばならない。
痛し痒しの状態で、目の前のお料理と向き合い、ほぼ黙食状態だ。
となりに座ったYちゃんが、しゃべりたくてうずうずしている感じが伝わる。
「私もだよ、私も同じだよ・・・」
そう心の中で思っていると、Yちゃんから驚きの提案が!
「絢ちゃんちみたいなお城ではないんだけど、本当に小さい部屋なんだけど、うちに来て思いきりしゃべらない?」と。
もっともパーソナルなスペース、自宅を提供しますというご提案が飛び出したのだ。
初対面なのに!なんたる心の許しよう・・・。うれしい。その気持ちが嬉しい。
「絢ちゃんちみたいなお城」という一言にもツウな一面を感じる。
いかに私のブログを読んでくれているかがうかがえるのだ。私はブログの中で我が家のマンションについて「お城ができた」「お城に引っ越しだ!」などという書き方をしていたのだ。
お邪魔させていただいたマンションは、きれいで居心地がいい空間だった。
テレビの上にウエディングドレスを着たYちゃんと旦那さんの写真が飾られている。
美男美女過ぎてため息が出る。
旦那さんお手製の切り絵も見事なクオリティーだ。
一日中このリビングで過ごしていたい。
ちーちゃんが買ってくれたケーキと、Yちゃんが用意してくれたお茶で、マスクティータイムが始まる。
「北陸」という閉鎖的な地で「マスコミ業界」という戦場にいた3人は、土壌が一緒だから、どんな話題になってもすーっと話が進んでいく。共通の知り合いも多く、話の内容もリズムも心地いい。聞き上手で話し上手の3人の会話は、そのまま録音してラジオにしてしまいたいくらいだ。が、ラジオにするとやばい情報も多々含まれていて、それがまた面白い。Yちゃんは自身が発案した大きなプロジェクトの裏話を、ちーちゃんは今企んでいることの途中経過を話してくれ、大いに盛り上がる。
Yちゃんは私のことを「北陸にこんな女性がいることが驚きだった」と言ってくれた。「全力で仕事をして、それでいて恋もしていて、お城もあって、文章も書けて・・・みんなが欲しいものを全部持っている。出る杭は打たれる地域で、自分の意のままに好きなように生きている。都会ではそういうタイプの女性も多いが、ここでそういう風に生きている絢ちゃんに会って話をしてみたかった」と。
なんたる誉め言葉だろうか。真逆ないじわるな見方をすれば「仕事しかせず、いい年をして結婚もせず、実家が少し土地持ちらしいけど、下品になんでもひけらかすように書いている嫌な女」となる案件だ。
確かに北陸は「いい時期に仕事をやめ、結婚し、子どもを産み育てていく」ことを良しとする感覚が根強く残っている。
「結婚しなきゃというプレッシャーはなかった?」と聞かれた。
古い感覚の祖母や父はそう思っていたかもしれないが、私には何を言っても仕方ないと思ったのか特段何も言ってこなかった。母は「本当に子供はいらないのか?可愛いもんやぞ」と言っていた。「子供は可愛いもんだ」という母の言葉は、つまり私や妹が可愛いという意味が含まれているため嬉しいなぁとは思ったものの、私は家庭を持たない気ままな人生を自身で選択して今に至る。
Yちゃんは何度も「私、絢ちゃんのストーカーで」と言っていた。
確かに私のブログを細部まで読んでいないとわからないことまで知っていた。
「実は・・・」と、告白めいて話そうとしたことも、「うん、知ってるよ。ブログに書いてあったから」と言って私を驚かせた。
私のブログに登場する彼の年齢層や性格までもプロファイリングして、見事に言い当ててきた。
私のブログはコソ読み族が多いことは自覚しているが、こんなに素敵な人までコソ読みし、分析までしてくれているなんて感激だった。
私は責任をもって「全公開」にし、誰に読まれてもいいという覚悟でアップしているので、ストーカーでも何でもない。
むしろYちゃんのことは「プラチナ読者」に認定し、何か特典をつけたいくらいだ。
初対面と思えぬほど大盛り上がりのティータイムを終え、17:00ごろおいとまする。
きょうのこと書いてもいい?と聞いてみる。
「きゃ~!あのブログに書いてもらえるなんて、ストーカー冥利に尽きるぅ」と、
どこまでも私を気持ちよくしてくれるYちゃん。
Yちゃんは帰りにトラのふきんをお土産にくれた。トラ?何でだろう??と思っていたら「寅年にちなんで」とのこと。うれしい!
ちーちゃんは帰り際に「きょうはありがとう」と、大和の包みを渡してくれた。
ん!?あっ!!朝買っていたようかんバイキングのようかんではないか!てっきりちーちゃんが自分用に買っているんだと思っていた。ようかん好きなんだなぁ、と思っていたら、私へのプレゼントだったのか。みんな、粋だ・・・。
刺激的で楽しい1日だった。
自己満足と自己浄化のために書いていたブログが、こんな素敵な出会いをもたらしてくれるなんて、書いていてよかったとつくづく思う。
実は去年、それなりに力を入れてあるエッセイコンテストに応募していた。良い知らせが来るなら今月中だったのだが、何の音沙汰もなく2月が終わろうとしている。
「あぁ・・・芽が出なかったな・・・」と思っている矢先に、こんなに素敵な時間が持てた。Yちゃんとの出会いは、エッセイコンテストの賞状より価値があった。
捨てる神あれば、拾う神あり。
腐らずに書き続けていたことのご褒美は、思ってもいない形で降ってきた。