トンネルと牡蠣とシングルベッド
旅の2日目。この日は2大ミッションがあった。
トンネルに貯蔵している日本酒を取り出しに行くこと。
もうひとつは牡蠣バーベキューだ。
珠洲市の酒蔵「宗玄」では2005年に廃線になった、のと鉄道のトンネルを買い取り、日本酒の熟成庫「隧道蔵(ずいどうぐら)」として使用している。
トンネル内は年間を通して12℃前後に保たれていて、品質を劣化させる光が差し込むこともない。まさに自然のワインセラー(日本酒セラー)のような場所なのだ。
彼は2017年に、宗玄で7本の日本酒を購入。
管理料を払い、トンネル(隧道蔵)に入れていた。
この度、熟成された日本酒を取り出しに行きたいという。
トンネル貯蔵庫。
こんな場所、なかなか見学できるものではない。
てくてく、てくてく。探検気分。
てくてく、てくてく。どんどん進もう。
彼は4年ぶりに購入したお酒に会えて嬉しそうだった。
「同じ銘柄でも、タンクで貯蔵した酒とトンネルで貯蔵した酒では味が変わります」と、お店の人が言っていた。
帰りに恋路駅周辺を散策した。こちらも廃線になった、のと鉄道跡地を観光地化したスポットだ。
日本海側の厳しい冬を前に、暖かい日だった。海が青い。空が青い。
別荘に帰ったら牡蠣バーベキューだと思うとすごくうれしい。
午後1時。
一斗缶の半分の大きさ、半斗缶に入った牡蠣を別荘の管理施設に取りに行く。
彼はその間に火おこしをしてくれていた。
今シーズン初の牡蠣にテンションが上がる。地元の「能登かき」だ。
大きな粒。最初の一口。うましー!!
半斗缶には、まだたくさん牡蠣が詰まっている。
食べても食べても、牡蠣があるという幸せ。
何なら「食べきれるのか?」という、幸せな不安。
途中、「何個食べたか数えとくんだった~!」と思うが、殻はごみ箱に捨ててしまっていて後の祭り。
バーベキューの火が弱まってきたため、残りはフライパンで蒸して食べた。
ガーリックバターソースなどで味変しながら、牡蠣の夕べが過ぎていく。
1人25個くらい食べたのではなかろうか。
おもむろに彼が、「ちょっと大変なことになってきた」と言う。
「何?一体何?どうしたの!?」嫌な予感がよぎる。
「さっきトンネルから出したばかりの750ml瓶が空っぽになりそうなんだ」
「・・・・・」想定の範囲内である。
23:00ごろ、そろそろ寝ようかとベッドの部屋に行く。
彼がいない。風呂かトイレにでも行ったかな、と油断していると「ばあ!」と布団の中から顔を出した。
私はまあまあびっくりして、持っていたマグカップのお湯を床にこぼした。
完全に浮かれている。きのう私が使ったベッドに入っている。
「どうするつもり?」
「どうするもこうするも、動く気はないよ」
「・・・・・」
広々とした別荘には、寝室だけで4部屋もあった。
ベッドも布団もあり余るほどあった。
しかし酔っぱらいは寂しがり屋のようだ。
私たちはシングルベッドに身を寄せ、「せまぜま」した空間で眠りについた。