ayakonoheya’s diary

日々のことを、ありのままに

「私はみんなに嫌われているんです」

正月、いつもの占いの先生のところに行くのが母と私の恒例行事だ。

通うようになって、もう25年ほどになる。

じっくりと個別に占ってほしいことがある場合は予約をして訪れるが、正月の占いは挨拶がてら顔を見せて2~3分お話をするというシステムである。

しかし、毎回良いことばかり言われるわけではないので緊張する。

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あるときは「私と一緒になりたいという男性がいるが、どうしたらよいか」と聞き、「あなたのことを好きと言いながら、この男にはまだ切れていない女がいますよ」と言われたり(実際に切れておらず、巻き込まれてひどい目にあった)、あることを遂行したいという夢を語ったときに「このまま遂行すれば、それをよく思わない〇〇と××があなたを潰しにきます」と言われたり(いま思ってもそれを断念してよかった)私にとっては転ばぬ先の杖のような存在になっている。

 

ただ、自分で「こうしたい!」という強い意志があるときは、占いで出鼻をくじかれることもある。自分の思いの後押しとなることを言われるとやる気が出るが、そうでないときは、そのとき抱いた熱い思いを封印することにもつながる。まあ、占いを無視して自分の意思を尊重することだってできるが、それはそれで大きな勇気を要する。

 

いつも「自分の思いに沿うような、素敵なアドバイスがもらえるといいなぁ・・・」と思うが、そんなうまいわけにはいかない。先生は忖度なしにバシバシと降りてきたことを言うので、自分の思いと真逆のことを言われることも多い。

 

「こうすればいいかもしれませんねぇ」というやんわりした言い方ではなく「いいのか、悪いのか」はっきりと断言されるので、力強くもあり怖くもある。

 

正月の占いは個別予約とは違うので、多くの人が列を作る。一人2~3分ずつ、今年の願いを話したり、そのとき抱えている悩みをこぼしたりする。小さな事務所に整理券を持った人々がごちゃごちゃと集うので、他人の話が聞こえることもある。プライベートな話はちゃんと先生も小声でしているが、「鬱治ったね、いい顔してる」とか「転職しないで今はふんばりなさい」とか「年をとると体も痛いけど心が痛いのよ」とか、その程度のことは聞こえてきて、少しショーのようになる。みんなその先生を頼ってきている、ということは同じなので、多少話の内容が漏れてもいいというアナログチックな感じで、先生との挨拶が進んでいく。

 

順番をついてからおよそ1時間15分後、母と私の番になった。

母は直前まで「今年は特に聞きたいこともないから、ちんと座って、先生の言うことを黙って聞くわ」と言っていた。

先生は母の顔を見ると「マンション建ててよかったね。あんた、お金あるね。お金に困らないね~」と、母の経済状況の安定を口にした。「この人はお金に困らない人なんだ―」ということが人々に知られていく。

 

しかし母は、先生の言葉をさえぎってとんでもないことを口にした。

「お金とか、そんなことはどうでもいいんです。それより・・・」

「なに?どうしたの?」

「私、誰からも愛されていないんです。みんなに嫌われているんです」

さすがの先生もぎょっとしている。私もまあまあびっくりした。

「みんなって誰かね?この子もかね?」

先生が私の顔を指す。

母は「そうです。私は子どもからも実の親からも嫌われ、友達もいないんです」と言うではないか。

 

人々の視線が母に釘付けになっているのを背中で感じる。

 

先生は静かに口を開いた。

「もうみんなね、この子もね、自立しているんです。親がああだこうだいらんことを言うては駄目なんです。あの男がどうやとかこうやとか。あんたはいらんことを言いすぎる。子どもが話してきたことだけを黙って聞いてあげればいいのに、あんたは質問をしすぎる。そんなの子どもは嫌がるんです。うるさいんですよ。いらんことを言わずに、子どもの話を黙って聞いてあげて、一緒にごはんを食べていればいいんです」と。

 

私は先生と目を合わせ、大きく頷きながら聞いていた。

普段私や妹が口をすっぱくして言っていることを改めて先生に指摘され、母もおかしそうに笑っている。

 

そうだ、そうだ、その通りだ!

先生、もっと言ってやってください!!

母はいつも「私は嫌われてる、友達もいない」と被害者ぶるのだが、その元凶は紛れもなく自分にあるのだ。

 

この前も妹の家に行っていらんことを山ほど言ったようで、妹も大層憤慨していた。「おかん、空気読めなさすぎる!」と。

 

3姉妹ラインという、母、私、妹で作るグループライン上でも、妹がちょっとこぼした子育ての不安について、母は「それはどういうこと?」「そのとき孫はなんて言ってた?」などと矢継早に5つほど質問をした上に、不安をあおるようなことを言い放っていた。

妹は「もういい!お母さんに相談したのが間違いやった」と書き込んでいて、私も妹を気の毒に思った。

 

実家に帰れば帰ったで、実の母にも生き方やお金の使い方に関して文句を言いまくっている。確かに祖母はケチだしお金の使い方もうまくない。「今ならフライパンがついてきてお得です!」といううたい文句に惑わされてトースターを買い、でも置く場所がないからといって封を開けず、物が捨てられない性格のため汚い家に住み続け、やっていることはトンチンカンだ。

 

しかし母は「こんな使いもせんフライパンに釣られてトースター買って!買ったなら使えばいいものを、置く場所がないからって封も開けてないし!だいたいこんな広い家に住んでトースターを置く場所がないって、おかしいんじゃない?いらんもの捨てんからやろ?畑に行く暇があったら断捨離して、きれいな家で新しいトースターを使えばいいものを!」と、ぶちかまし、実の母にも「もう家に来てほしくない」と、うるさがられている。

 

母のいうことは正論ではある。その通りだと思う。

私もそうすればいいと思うが、あえて口にしない。90年近くそうして暮らしてきた祖母の頑固さは変えられるものではない。

私は段ボールに入れられたままのトースターを見て見ぬふりし、断捨離ができない祖母に対し「断捨離せよ」などとは言わない。

 

今回の帰省中にも実家に寄ったが、祖母は「忙しくて、片付けが中途半端でね」と言ってきた。別に改めてそんなことを言わなくても、いつだって実家は片付けが中途半端で、ごちゃごちゃしているのだ。いつも母に叱られているから、私が何か言う前にそう言ってきたのだろう。私は「そりゃそうだわ。忙しいなら仕方ないわよ。元気が一番」と言ってあげる。

すると祖母はものすごい笑顔になって、私に正月料理を勧めてくる。私は「こんなすごい料理を作っていたら、そりゃあ、断捨離どころじゃないわよね」と言ってあげる。

すると祖母の笑顔は倍増し、「これも食べるか?」「あれも持っていくか?」「もう帰るんか?寂しいねぇ。まだおればいいがに」とまで言うのだ。母に対しては「お前はうるさい。もう来んでいい」という祖母が。

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私にはサービス満点の祖母

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美味しい、美味しいと食べるのが、何より喜ばれる 鰆の昆布締め

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ごちゃごちゃした実家 断捨離できない祖母

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「新しいトースターはいずこ?」そう思っても私は聞かない

実は私も年末の帰省の直前に、今後の身の振り方をどうすべきか、大いに悩む出来事に遭った。年末恒例のカニを食べる会で母に話そうとは思っていたものの、「変な相槌打たれてムカつきたくないな・・・」という思いが先立った。

 

私は「おかん、私は今から大事なことを話すけど『あんたどうするつもり~?』とか変な相槌打って私の心を乱さないでよね。それができないなら話さないけど」と、前置きをしてから話し始めた。身内なのに、要注意人物なのだ。

 

カニを食べながら、私は慎重に自分の迷いを打ち明けていく。母は直前に注意を受けたにも関わらず、私の神経を逆撫でするような質問を口にした。くぅ・・・。悪気はないけれど、思ったことを不躾に口にして嫌われる人っている。

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いらんことを言う母 カニの会でもやや失態あり

でも空気が読めない人は、読めないからこそ、苦しいらしい。何がNGなのか分からないから、自分でも怖いのだという。そうして不用意に口にした言葉で人を傷つけ、人を苛立たせ、人に嫌われ、自らも傷んでいく。

 

音もなく降りしきる雪を見つめて、私は年末、ある高揚感に包まれていた。人生の大きな岐路に立たされていたとでもいうべきだろうか。犠牲も出るけど、そんな道もあるかもしれない。大きく舵を切ってみようか―。

その道を選べば、2022年の過ごし方が変わってくる。私はここ1週間、その準備運動というか、準備妄想をしていたと言っても過言ではなかった。

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この雪を見ながら、私は迷っていた・・・

私は先生に自分の迷いを打ち明けた。

先生はスパッと「そっちは駄目!現状維持の方がまだいい」と言い切った。

「ああ、そうなのか・・・」私はがっくりした。

 

新たな道を選べば、年始からもろもろ忙しく準備を進める予定だったが、もうすることがなくなった。気が抜けた。急にお腹が空いてきた。

 

金沢中央卸売市場前の商店街にある「金沢牛たん食堂10&10」に入る。

ケチりたくなかった。

100gではなく、120gの、通常の牛タンではなく、厚切り上牛タン定食を注文した。

分厚いタンをほおばりながら、心を整えていく。

ドライブに入れかかっていたギアを、ニュートラルに戻す。

走り出そうとしていた気持ちにブレーキをかける。

 

長い目で見るときっとそれが正解なのだろうけれど、今はとても空しかった。

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厚切り上牛タン定食 1600円

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食べて気持ちを切り替えるしかない・・・ う、うまいし・・・

嫌われ者の母が、私の占いの結果について自論を述べ始める。

実に気持ちよさそうに。滔々と・・・。

 

「また~!おかんの意見は聞いてないやろ!?今、先生に言われたばっかりやろ?今、叱られたばっかりやろ??何でそんなこと言えるん?そういうとこ!そーいうとこ!!」

 

私に叱られ「やっちまった」という顔をしている母。

「もー!ムカつくから、ブログに書くし!!」と言い残し、私は富山に帰ってきた。