リポートの引き算
「きょう台湾まぜそば食べに行かんけ?」と母を誘う。
「いいね。何時に?」すぐに返事が来た。
なぜいきなり、台湾まぜそばなのか?
何を隠そう、過去の自分の食レポを見て、食べたくなったのである。
めでたい。我ながら、めでたすぎる。
正直に母に話してみる。
「私がさ、でかい顔して、汗だくになって麺をすすっとるんよ。化粧も流れ落ちてかなりヤバいんやけど、うまそうには見えるんよ。『まぜそば歴20年ですが、初めて出会う味です。異国情緒溢れる味ですね』とかなんとか、そそること言っててさ。それで自分で食べたくなったんよ」と。
「あんた幸せやね。自分の食リポ見て食べたくなったなんて。こんな図々しいこと誰にも言えんね。親にしか言えんやろ」と、母が言う。
確かに。会話では言えないが、こうして書いてしまうので一緒なことだ。
母は「あんたの顔がでかいことなんて、あんまりわからんよ。隣に人がおれば一目瞭然やけど、あんたがテレビに出るときは、たいていワンショットやしね」と、励ましでも何でもない失礼なことを、悪気もなくさらりと言う。
母といると、二人で好き勝手なことを言いながら時間が過ぎていく。
さて、なぜ過去のVTRを見たかと言うと、尊敬するMアナにあることを指摘されたからだ。
「あなたのリポートは、コメントもよく考えられてるし目立つ。だからこそ、その強いリポートを立てるために、引き算できるところは引き算した方がいいと思う。強い+強い+強いだと逆に強いところが立たなくて、圧を感じるんだよね。ぐいぐい来すぎるというかさ。弱いところがあるから強さが引き立つ。オフコメにするところはした方が、よりリポート部分が立つと思うよ」と。
Mアナの言い方は賢くやさしい。「リポート多すぎてしつこいよ」と言われたら、「はん!?それが私の個性ですし!だいたい私のコーナーで視聴率落としたことありますかね!?」と、挑戦的な態度をとってしまいそうだが、「せっかくの強いリポートを立たせるために引き算を」と言われると悪い気がしない。
こういう指摘って、される側よりする側の方が10倍神経を使うだろうと思う。Mアナも言いにくそうではあった。でも私のことを、番組のことを思って、言いにくいことを言ってくださったんだと思った。私の癖を知り尽くした人の言葉だった。私は3秒後に「わかりました。引き算します」と素直に返事をした。
VTRは「リポート」と「オフコメ」で作られている。
リポートは現場で話す言葉。オフコメはスタジオでアナウンサーが読む部分。
そうやってニュースや企画を見ると、「今リポートだ、今オフコメだ・・・」「このVTRはオフコメが多いな」など、ちょっとツウな見方ができるかもしれない。
私が作るVTRは、ほかのディレクターに比べてリポート部分が圧倒的に多い。自分で下調べから編集までするので、多くのことを現場で言い切ってくる。
改めて見直すと多いかなぁとも思うが、その圧に負けて台湾まぞせばを食べに行った自分もいるので、何が正しいかは何とも言えない。
次の特集は太宰治がテーマだ。Mアナの忠告を肝に銘じ、私は使おうと思っていたリポートを5つ落とした。「リポートを活かすために、リポートを減らす」
そう思うと、苦労して撮ったシーンもためらいなくカットできた。
確かに、引き算してちょうどいいくらいの「圧」だった。
私にしては「圧」少な目のVTRですが、きっと「今一度、太宰治を読んでみたい」「企画展を見に行きたい」と思ってもらえるハズです・・。
12月3日(金)15:42~放送
北陸朝日放送 ゆうどきLive
『富山で太宰治の世界に浸る』