美しき下着たち
女性の下着って、改めて見るとなんて技巧が凝らされた美しいものなんだろう。
レースがふんだんに使われていて、色やデザインもとても凝っていて、
胸元やショーツに揺れるチャームがついているものまである。
きれいだ・・・夢がある・・・芸術品だ・・・。
下着売り場を歩くと、まるで花畑に迷い込んだかのような錯覚に陥る。
こんな素敵な場所ならば、ちょくちょく来ればよかった。
でも、下着売り場に行くまではなぜか億劫で、足を運びにくいのは私だけだろうか。
いまつけているものたちは数年前に買ったものだ。
ブラとショーツをセットで7組まとめ買いした。1週間で1セットまわるようにと。
あのときは「これからも毎年、7セットずつ買って入れ替えていこう」と思っていたのに、「まだ全然いけるな、まだまだ使えるわ。さすが手洗いの威力、全然傷んでない」などと言いながら、私は使いに使い込み、買いに行かなきゃ買いに行かなきゃと思いつつ、購入を先延ばしにしてきた。
ときおりへっちゃらで、彼のパンツもはいていた。
彼はぴたっとフィットしなくなったら「はい、アヤちゃんのブルマ用」と言って、履き古したボクサーパンツをくれた。
冷え性の私は彼に言われた通り、自分の下着の上にボクサーパンツを重ねてはいていた。これで腰や腹が冷える心配はない。
なんなら、直におさがりのボクサーパンツをはいて過ごす日もあった。
洗濯物に男物のボクサーパンツを見つけた母が「これは何か?」と問うてきた。
「ああ、彼のおさがり。私のブルマ―だよ」と答える。ひとつも嘘はない。
そんな私がなぜ意を決して下着売り場を訪れたのか。
それは下着ショップのインスタに「モバイルクーポン利用で20%オフ」と書かれていたからだ。
期間は9月11日(土)から17日(金)までと割と短い。
これはすぐさま行かねばならぬ。
私が愛するワコールの下着は、まあまあいい値段がする。
今回の20%オフイベントに乗じて、これまでの数年間分を取り戻すかのように買い込もう。日曜日。私は重い腰をあげ、下着売り場が入っているショッピングセンターを目指した。
久しぶりに訪れた下着売り場は、本当に華やかだった。
若くてかわいい店員さんは、トップ、アンダー、そしてウエストとヒップも測っておきますねと採寸してくれた。
下着は似合う、似合わないというよりは、思いきり気持ちが上がるものを買っていいアイテムな気がする。パープル、オレンジ、イエロー、ブルー・・・わたしは色とりどりのブラを選び試着した。
そのたびに店員さんが試着室に来てくれ「前にかがんでください」とうながし、私のバストをきれいにブラジャーの中に入れてくれた。
店員さんにつけてもらうと谷間ができた。どうしてこんなに上手なんだろう。
「わきの胸の下側からぐいっと全部持ってくるんです。全部です、全部。
ワイヤーの位置はバストのすぐ下で合わせてください。みなさんこの位置が低いことが多いんです」
私は店員さんが教えてくれるコツを「ほぉ。ほぉ・・・」と聞きながら、毎朝、この人が私の家に来て下着をつけてくれたらいいのに、と思った。
ブラウスの上から見る店員さんの胸も、とてもきれいだった。
帰宅した私は、購入したばかりの下着たちを並べて悦に入った。
まるで宝石を眺めるように、それらを愛でた。
美容院や下着売り場で、自分の体を丁寧に扱われた日は、もう少し女性であることを楽しんでみようかと思う。
と言いながら、今、私が風呂上りに身に着けたのは、彼のおさがりのボクサーパンツに、GUのブラトップだ。あとは寝るだけの夜は、これで十分なのだ。
宝の持ち腐れとはこのことか。
「これらは大事なときにとっておいて・・・」という貧乏根性が、私の下着偏差値を格下げている。