異動までの日々② 発表の日
2021年3月1日(月)
午前中、人事異動の全社メールが出された。
特に番組を一緒にしている後輩たちは驚いてくれた。
不躾に「希望出したの?」と聞いてくる人もいた。「まったく出さない」と返信する。
「新居完成したばかりなのにお気の毒」「また引っ越し大変ね」という、同情の声も多く聞いた。
でも私はわりと前向きだった。
「辞めるわけじゃないし」「まったく畑違いの部署に行くわけでもないし」と、まわりが心配してくれるほど、理不尽さは感じなかった。
今は富山にいく流れなんだろう、その方がいいんだろうと思っていた。
母の反応は思いのほか、とても明るかった。
「あんた富山好きやったいね。お友達もいっぱいおるがいね。
あんた富山でまたイキイキするよ。帰ってくる家がここってうれしいがいね。
遊びに行ったり来たりしよう」と。前向きで、私以上にうれしそうな反応だった。
彼にはただ「異動になりました」と伝えるのは面白くないなぁと思い、
「この春、富山にも別荘『あやこリゾート』を作ろうと思うんだ~」と言ってみた。
彼は狙い通り、私が富山にもマンションを建てようとしていると勘違いしたようで、
「は!?それは無理しすぎだよ。億だよ」と言った。
それでも私が「富山リゾートを持つんだ~」と、頑として譲らずにいると、次は穏やかな口調で「そんなすごいの建てなくていいよ。ね!?富山に行ったら素敵なホテルや温泉にお泊まりすればいいし。ね!?」と言ってきた。
私は「でもあてがあるんだ。私が富山に別荘を持つのを支援してくれる人もいるし」と
言った。彼は「は!?誰?」と言う。私は「会社かな」と答える。
ここでピンと来たようだ。「えっ!?富山異動?」と。私は「そう」と答えた。
発表の日の局会。局長の言葉が印象深かった。
「人事は『さあ、来い!』というときに、満を持してくることはない。
だいたいそのときの会社のバランスなどで動くものだ」と。本当にその通りだと思う。
「自分の仕事がここまで終わったら」とか、「この目標が達成したら」なんていう個人的な思いはまったく反映されない。
まさに将棋の駒のように、大きな手でトン!と動かされる。それが会社員の定めだ。
あとは自分次第だ。
もう「会社のために」と思って仕事をする時代は終わった気がする。
それだと自己犠牲のような卑屈な精神が宿ってしまう。
逆に、「会社という舞台にいられることを利用して、自分が輝かせてもらう」という気持ちでいることが大事な気がする。
そう思えば、異動もひとつのエンターテインメントだ。
異動までの日々③につづく