ayakonoheya’s diary

日々のことを、ありのままに

男手(おとこで)

2021.1.13(水)くもりときどき雨

 

 昔、暖房器具の扱いに困ったとき、目上の男性に「ちょっと男手(おとこで)が必要で・・・」と言ったことがある。その人は「男手♪男手♪俺は何をしたらいいんだ?」と、とてもウキウキした様子でいらっしゃった。

 

 その様子が私にかなりのインパクトを与えた。「男手がほしい」という言い方は、

男の人のやる気を増す魔法の言葉だと。それから私は割と「男手が」「男手が」という

ワードを使ってきた。

 

手伝ってほしいときに「男手がほしくて・・・」

重いものを運んでほしいときに「男手が必要で・・・」

後輩が困っていたら「男手を向かわせようか・・・?」などなど、

日本で一番「男手」という単語を口にしているかもしれない、とさえ思う。

 

そんな男手に、最近とても助けられている。

おととい、雪道でスリップした。私一人だったらどうすることもできないシーンだったのだが、そこにわらわらと男性陣が集まってきた。男性というのはこういうときにどうすればいいのかよく分かっている。

 

どうハンドルをきって、どの強さでアクセルを踏んで、どのギアを入れて、タイヤのどこに何をかまして、スコップでどこを掘れば効果的かが分かってる。

多くの女性は、そういうことを考える脳があまり発達していないように思う。

少なくとも私は何もわからない。

 

「アクセルを思いきり踏んで」と言われても、嫌なのだ。恐怖でしかない。急発進して人を轢いてしまうのではないか、と心配なのだ。車を押す側にまわっても、大した力もない。

 

おとといは私の車がスリップしたのにも関わらず、私は早々に車を降りてハンドルを男性にまかせた。他にも男性がたくさん集まってくれたので、車を押す係も男性にまかせた。私はただ、事のなりゆきを祈るように見つめるしかできなかった。なんの活躍もできないことは明々白々だった。ここは男手にまかせようと静かに思った。

 

こうした中、「男手ヒエラルキー」のトップに立つ男性が、現場で指揮系統をとりはじめた。私の車の2台後ろにいた人だった。颯爽とスコップ持参で降りてきて、タイヤの下を掘ったり、ドライバーに指示したりし、いつの間にか全員がその人の指示に従い始めた。

 

その人は「まずバックしましょう」といった。ドライバーはギアをバックに入れて

思いきりアクセルを踏んだ。その他大勢の男性たちは、思い切り車を押す側にまわった。

「高級車はびくともしない!ぐぉー、動かないーー!!」

「タイヤが浮いているのではないか?」などと言いながら。

 

私の赤いレクサスCTは、すました顔してびくともしない。

車高は低いし、車体は重いし、スリップを感知して動こうともしない。雪道との相性がすこぶる悪い。雪の中では、顔だけよくて中身のないイケメンのようだ。

その横を4WDの軽四自動車が、轍をものともせずに走り抜けていく。そう、4WDの軽四は雪道とすこぶる相性が良いと聞いたことがある。

 

その人は「車を前後に揺らしましょう。バック、前進、バック、前進と揺らしましょう」と指示を出した。しかし車はバックしてきゅるる、前進してきゅるると、なかなか思うようにはいかなかった。

 

その間にもどこからともなく木の板を持ってくる男性、スコップで掘る男性と、男性たちはそれぞれの持ち場で輝き始めた。

 

およそ15分の格闘の末に、車はぶろろろろんとバックした。ハマっていた場所から大きく動いた。「もう大丈夫だ」とその人は言った。あとは前に進むだけだ。みんなが見守る中、赤いレクサスは映画のワンシーンのように轍を抜けた。

 

私は「やっぱり男手だわ~」と、「男手」のありがたみを再認識した。

名前も知らない雪かきリーダー。そして多くの男性のみなさん。本当に本当にありがとうございました。

 

その日私は雪かきの進んでいる実家に車を停めて、マンションまで歩くことにした。

 

この一件を知った彼からは「明日も駐車場ボコボコやったら、帰り一緒にマンションまで行って駐車してあげようか?」とLINEが入った。頼もしい男手。ここは遠慮せずに

甘えておこう。

 

翌日彼は私の家まで車を連ねてやってきた。そしてボコボコの轍の前で運転を変わり、私なら完全にハマってしまうであろう道を、いとも鮮やかなハンドルさばきで駐車してくれた。そしてスコップで雪を崩してすかして、「これであすは一人でも出やすいと思うよ」と言い残し、鮮やかに去っていった。

 

「男手」ってスゴイ・・・!