ソファーで寝ることの是非
ソファーでうたた寝するのが好きだ。本気で睡眠をとるというより、ただ、のんべんだらりと惰眠をむさぼる。これこそ至福のときではなかろうか。
彼の家でも私はすぐにソファーで眠りこける。「謎解き系」のドラマが好きな彼は、いつもそれ系のDVDを選ぶ。私も最初は面白く見ているのだが、だんだんと恐ろしいほどの睡魔が襲ってくる。「まあ、謎は主人公が解いてくれるであろう。ここで私が眠っても誰にも迷惑はかけまい。謎解きはプロにまかせて眠りにつこう・・・」と思うか思わないかの間に、かくっと落ちるのだ。
うとうと・・・むにゃむにゃ・・・ごろんごろん・・・
こうして最高の気分で寝ているところに、教官のような命令が降り注ぐ。
「そんなところで寝てないで、寝るんなら布団に行って寝なさい」
むにゃ!?なんか言っているが、無視して寝続けようか・・・と、一瞬思う。
別に私はガチで寝たいわけではないのだ。ここで色んな音や気配を感じつつ、むにゃむにゃとしていたいだけなのだ。
「え?嫌だよ。別にガチで寝たいわけじゃないし。ここでいいし。ここがいいし」
何度この不毛なやりとりを繰り返せばいいのだろう。ソファーでのうたた寝など、放っておいてくれればいいのだ。
彼だって部屋で素っ裸で過ごしているが、私は何も言わないではないか。それが気持ちいいならそうしていればいい。部屋での過ごし方など、互いに自由でいいはずだ。なぜ私ばかりが、ソファーで眠った、というだけで注意を受けなければならないのか。
「布団にいきなさい」という一言で、私の中にある不満が一気に呼び覚まされる。
そもそも私は毎日すごくまじめに生きているのだ。お酒、たばこをしないのはもちろんのこと、会食に誘われてもすべて断り、誰かとつるんで人のうわさ話に興じることもない。金銭感覚もしっかりしており、貯金し、納税し、お金にありがとうございますと言いながら過ごしている。日記も欠かさず、日々反省しながら生きている。ミーハーな気持ちも皆無なので、芸能人や有名人やイケメンが現れてもピクリともしない。
こんな女侍(おんなざむらい)のようなイイ女を彼女にしながら、そのうたた寝を見過ごせないとはどういうことか。本気でそう思うのだ。
本当ならば毎日「君は真面目だ。素敵だ。女侍(おんなざむらい)のように気持ちがいい!」とほめたたえて欲しいのに、「布団で寝ろ」と上から言われる始末。
いい加減、我慢の限界である。というわけで、ある日思い切って問うてみた。
「なんで布団に行かんなんの?本当の理由は何?明確な理由を言って」と。
もしかして「寝るときは私がいないと眠れない」という可愛いものなら、すぐさま許し添い寝をしてあげよう。
もしかして「ソファーが傷む」という物理的な理由なら、金にものを言わせて2台目のソファーは私が買おう。
もしかして、さしたる理由がないのに「布団に行け」と言っているだけなら、ここはしっかりと謝罪してもらおう。
色んなパターンが私の中でめぐる。そして彼の口から出たのは意外なものだった。
「人としてのけじめっていうかさ・・・」
え!?人としてのけじめ??
「寝るときは布団に行く、って人としてのけじめじゃない?」
まさかの答えに返答に窮する。人としてのけじめ、人としてのけじめ・・・
女侍(おんなざむらい)なのに人としてのけじめがないらしい・・・けじめがないらしい・・・ぐるぐる、ぐるぐる・・・。
そして、そろそろこの文章も締めなくちゃなと思っている今、もうひとつ「ハッ」と思い出したことがある。それは昨晩、コンタクトの抜け殻をその辺に放置してきたことだ。私はいつも眠る直前に使い捨てコンタクトを外し、枕元か床かどこかその辺に放置する。朝起きたらごみ箱に捨てようと思っていたのに、それを忘れてしまったことを今この瞬間に思い出したのだ。
乾いてパリパリになったコンタクトを見た彼は、最初はガラスの破片か何かと思ってびびったらしい。でも、今はもう私の仕業だとわかってしまう。
はあぁぁぁ・・・。自称イイ女の女侍(おんなざむらい)は、近々コンタクトを放置したことで叱られそうです。
はあぁぁ・・・。「人としてのけじめがない」と言われて。