おうち時間 VOL③ ~窓から東京タワー~
2020年5月3日(日)くもり
「東京タワーが見えるねえ」
母がそう言った。
マンションの窓から見えたのは、普通の鉄塔。でも「自分にとっての東京タワーなんだ」と思えば、東京タワーにも見えてくる。
2015年6月。およそ5年前に引っ越してきたマンション。なんといっても
南の窓からの眺めが気に入っている。さえぎるものなく見通せる景色。
「2LDKで眺めが良いところ」という条件で4件まわり、2時間ほどでさくっと決めたんだった。
コロナ自粛で「ステイホーム」が叫ばれる今、このマンションのありがたみをさらに感じる。カーテンを開けておけば、半分外にいるかのような雰囲気だ。片づけをしていても、テレビを見ていても、気持ちがいい。緑の風が吹き抜けていく。
いつも「仕事だ、撮影だ」と出歩いているから、家がこんなに心地良いんだということに気付かなかった。家から1歩も出ない日もあるが、特にストレスはない。
ふと思い出したのは高校受験のときの正月特訓。塾に6~7時間ほどこもって勉強をしていたのだが、あの時は苦しかった。友達に「ああ・・・苦しい。私、缶詰めの具になってる・・・カンヅメ、カンヅメ・・・」と訴えながら授業を受けていた。今にして思えば、中学生の私があんなに苦しかったのは、塾の部屋に窓がなかったからだと思う。
母が東京タワーと言ってから、私は今まで見向きもしなかった鉄塔の美しさに気付き始めた。長いことカメラ部にいるが、そういえば鉄塔をモチーフにした写真は見たことがない。家のベランダや、近所から鉄塔を撮ってみる。青空に映える鉄塔、マジックアワーに溶ける鉄塔、夕焼けに照らされる鉄塔、なんて美しいんだろう。実益と美貌を兼ね備えた建造物。
二人の小さな子どもをもつ妹は、「いつもGWは周りがザワザワ動き出すから、どこか連れて行かんなんなーって使命感に駆られるの。でも行ったら行ったで渋滞や人ごみにメッチャはまってクタクタになる。少し、しんどかったんだよね。今は出なくていいって言われるからみんなも周りもザワザワしないし、家に心おきなく居られるし、なんか、いいわ」と言っている。
わかる気がする。もちろん命に係わるウイルスだから気が抜けないし、日々の行動は制限されるし、怖いことは怖い。でも今はじっくりと家にいて次につなげる時間だと思えば、それは「捨て時間」でなく「耕しの時間」になるだろう。
まもなく夜になる。私の東京タワーもライトアップされるなら、ここの家賃が1カ月500円アップしてもいいのに、と思ったりする。