草をむしるように歯を抜く
2022年9月8日(木)くもり 歯科医10:00予約
採血が怖い、点滴が怖い。痛いことが人一倍苦手だ。
おそるおそる「痛いですかね?」と聞いてみる。
「麻酔がちょっとチクッとしますかね~」と、先生が言う。
そうして本当に、外側の歯茎にチクッと痛みが走った。
しばらく時間をおいて内側の歯茎もチクッとした。
麻酔は2カ所から打たれ、感覚がなくなっていく。
私はきょう、歯を抜くのだ。
さようなら。奥から2番目の左下の歯。
さようなら。ぎりぎりまで持ちこたえたけど、もう限界のようです。
前回の検診で先生はレントゲン写真を見ながら、「やっぱり歯が折れているようですね。ここからばい菌が入って黒くなっています。このままいくと骨が溶けて、インプラントの釘も打てない状態になります」と、断言した。
思えば去年の春ごろからやばかったのだ。歯茎が腫れて痛かった。
体調不良か?虫歯か?何だろう・・・と診断を受けた1年前にも、「歯の付け根が割れているようですね。いずれ抜くことになるでしょうが、もう少し様子を見ましょうか」と、言われていたのだ。
歯ブラシや糸ようじでの手入れは丁寧にしていて、定期検査のたびに褒められる。
出血24%、プラーク17%と、低い数値だ。
でも歯の根元が折れていることはどうすることもできず、いよいよ抜かねばならないところまで迫っているようだ。
先生のことは信頼しているものの、念のためセカンドオピニオンとして別の歯科も訪れた。インターネットのコメント欄で信頼の厚かったベテラン先生は「僕でも抜くことになるでしょうね」と言った。
もう決心するしかない。
まな板の上のコイは、麻酔を打たれ、身をゆだねるしかなかった。
歯を抜くのがこんなにあっけないとは思わなかった。
麻酔を効かせた後、先生は草むしりをするかのように、いとも簡単に歯を抜いた。
みりっと、ひと思いに。
あ、こんなさくっと歯は抜けるのかと思った。
「麻酔ってすごいな」と、麻酔を発明してくれた科学者にも感謝した。
先生は「あ、やっぱりぱっくり割れてましたね」と、抜いた歯を見て言った。
私は「抜いた歯、もらってもいいですか?」と聞いた。
先生は「どうぞ~。袋に入れて受付に預けておきますね」と快諾してくれた。
その反応も私を安心させる材料になった。
本当に抜くべき歯だったんだな、と思った。
私は用心深いので、あらゆる場面で記録を取りたがる。
写真だったり、メモだったり、何かあったときに証拠として示せるものを手元に置いておきたがる。
帰ってからまじまじと抜いた歯を見る。
素人目に見ても、ここが割れている部分なんだろうなと推察できる。
割れていない歯と比較すればもっとわかりやすいのだろうが、割れていない歯は抜くわけにはいかないし。
さっきまで私の体の一部だった歯は、金属と血液が混ざり、魚市場のような生臭い匂いがした。
朝、昼、晩と食後に1錠ずつ飲む内用薬『トミロン』
我慢せずに痛いときは飲んでくださいねと渡された頓服薬『ロキソニン』
それらを飲みながら、たまの休みを満喫しようと意気込む。
ハードディスクの整理とか、たまっている書き物とか、読みかけの小説・柚木麻子のBUTTERを読み切ることとか、そろそろ再開しようかなと思っている筋トレとか、ごちゃごちゃしている棚の整理とか・・・。やりたいことは色々あるのに、薬のせいか眠くなり、ちょっとベッドに横になるとすぐ寝てしまう。
こうしてのんべんだらりと過ごしていると、仕事用のスマホに「黒部のYさんから電話がありました。月曜日には来ると伝えておきました」と入る。
え?黒部のYさんって誰?黒部市?民間?男性?女性?何の用件?ぱっと思いつかない。
私はスタッフに「居住地と苗字だけじゃ何もわからない。この仕事はスピードが命。もしかして週末に何かしてほしいう用件かもしれないし。私は休みの日でも即座に電話は折り返したいから、今度から連絡先と用件を必ず聞いておいて」と伝える。
「了解しました」と返事が来る。
抜いた歯の歯茎を舌で触りながら、黒部のYさんとは誰か、思いを巡らす。
その日の夕方に判明したのだが、1年ほど前にお会いした方で、数週間後にあるイベントの取材依頼だった。
そうしてまた、抜いた歯を引き出しから取り出して眺める。
ぱっくりと真ん中が割れた歯を見て「この歯はこのまま残すと逆にろくなことがない、未来を邪魔する歯だったのだ」、と言い聞かせる。
きょうは今後の人生においていらないものを抜き去り、大きく前進をした1日なのだ。
キラキラめだかと屋久島の風呂 2022年夏休み⑥
2022年7月30日(土)晴れ 金沢35・0℃
わいわいと楽しく過ごした夏休み。
妹と甥っ子&姪っ子は、9:47金沢発の北陸新幹線かがやきで帰るというので、駅まで送っていく。けがや事故などなく、無事に過ごせたことが何よりだ。
きょうからは大人の時間。彼と羽咋市の神子原(みこはら)農産物直売所『神子の里』へ。彼が別の用事で神子原に来たときに、『キラキラめだか』なるめだかを見つけたということで、それを見に行くのが1番の目的。私の熱帯魚水槽に新たな仲間を迎えることを思うと、わくわくする。
私の運転で、のと里山街道を行く。空の色や雲の形が夏だ。暑くて、ちょっと外にいるだけでぐったりくるけど、私は夏が好きだ。一日が長くて、午後も、夕方も、夜も、ずっといいことがありそうな・・・そんなワクワク感に包まれる。
キラキラめだかは8匹1000円で販売されていた。迷わず購入して、そこで神子原ライスボールやから揚げなどを食べる。彼は3種のビールの飲み比べを頼んでいた。昼間からビールの飲み比べがしたくて、私を運転係に任命したのだろう。
そのあと道の駅のと千里浜で、ジェラートを食べたり、足湯に浸かったりする。
このあと温泉でも行こうか、どうしようか・・・と話していると、彼が「薬局で屋久島の入浴剤を見つけたから、それ買って帰って屋久島風呂にする?」と提案してきた。
そうだね、それもいいねと、めだかをこぼさないように安全運転で帰る。
午後2時ごろ。ぬるめにお湯を張って、『バスクリン 屋久島コレクション 屋久杉の香り』を入れる。飲み物持参で湯船に浸かり「あぁ・・・屋久島だね~」と、行ったこともない屋久島に思いを馳せる。
夜は花火大会だった。家の窓からはよく見えなくて、県庁の展望ロビーで見ようとしたが、20:00で閉めますと張り紙があった。仕方なく、部屋を暗くしてマンションの窓から小さな花火を見る。
色んな建物に邪魔されて見えにくいが、ドーン、ドーンという音で日本の夏を堪能する。
平和だなと思う。
人は戦争や災害が起きたときなどに当たり前の幸せに気付くことが多いが、私は「きょうも無事だった」「きょうも元気だった」と、日々、指さし確認をするように生きているので、まあまあ疲れるがいつも幸せである。
翌日、富山に戻って熱帯魚水槽にキラキラめだかを投入した。
水槽が一気ににぎやかになった。スイスイ泳ぐめだかを見ながら、眠りに落ちる。
充実した夏休みだった。あすからまた取材の日々。
「なんだかんだ 可愛い」 2022年夏休み⑤
2022年7月29日(金)晴れ 金沢34.2℃
石川県立図書館がスゴいらしい。
今年7月16日にオープンしたばかりで、SNSなどを見ても評判がよい。全国放送でも紹介されているようだ。
近くの施設って「いつでも行けるわ」と思って逆になかなか足が向かないのだが、これまた妹が「この帰省中に行きたい!」と意気込んでいるので、炎天下、私の運転で向かうことにした。
とにかくこの夏は暑い。駐車場から施設に入るまでの数百mすら、暑くてどうにかなりそうだ。
石川県立図書館の魅力は、大きな声じゃなければおしゃべりは自由という点。サイレントルームをのぞけば、会話OKという気楽さが何とも心地いい。席も色々あって、従来の図書館の概念を覆すような『知のテーマパーク』といった感じ。
妹も「こういうことに税金を使ってほしいよね」と言っている。
きょうは施設の見学デー。今度来るときはゆっくり読書をしてみよう。
そういえばこの帰省中、妹は「葬式の写真を撮ってほしい」と言っていた。
縁起でもないが、別に葬式じゃなくてもバストショットのここぞの1枚はあって困るものではない。
日々子どもの写真は増えていくが、旅行に行っても、おでかけしても、自分のピンのショットを撮ってくれる人がいないという。
私は「OKOK!得意分野よ」と、妹の帰省中、いろんな写真を撮ってあげることにした。
私の強みは「その人のコンプレックスがわかる」という点だ。
特別いいカメラを持っているわけでもないし、腕があるわけでもない。ただ、人物を撮るときに、その人の「撮ってほしいところと、強調されたくない部分」が瞬時にわかる。自分自身が整った顔ではないからこそ、被写体の気持ちが分かるのだ。
妹は黒目は大きくぱっちりしているが、口が見ようによってはカエルのようになる。
そのカエル口を、いい方向に引き出さなければならない。
あと、祖母や父が元気なうちに、集合写真も撮っておきたいというので、実家でもカメラマンをしていた。色んな組み合わせで撮りまくり、茶の間でアイスを食べた。
甥っ子や姪っ子が『ガツン、とみかん』というまあまあ大きいアイスを2つも食べていたので「大丈夫?おなか壊すよ」と心配する。昔、私が小さい頃には「アイスは1日1個」という決まりだったので。
夜は、私の彼も交えて私の部屋でBBQだ。
甥っ子たちは元気にはしゃぎまわっている。普段ほとんど使わないバランスボールを転がしてバタバタと走り回り、30万円の高級椅子のオットマン部分を椅子にして座っている。そしてフランクフルトをむんずと手でつかんで食べているではないか。
「大丈夫だよね?その手でオットマン触らないよね!?」と、心の中でハラハラしつつ、濡れ布巾を渡し、手を拭くよう促す。
姪っ子が「これ、絢ちゃんが作ったの~?」というので、何かと思ってみたら私の手作りマグカップでお茶を飲んでいる。わあ・・・。それは名古屋のノリタケの森で親友と作った思い出のマグカップだ。サクランボとてんとう虫を描いた世界にひとつだけの品。お願い・・・割らないでね、割らないでね、と心配になる。
普段、大人としか接していないので、子どものすることがわからない、無駄にどきどきしてしまうというのが私の弱点だ。うるさく言うのもいやなので、言葉にはしない。ただ、どきどき、はらはらしたお部屋BBQ。
BBQが終わって、子どもたちを寝かせた妹が再び部屋にやってきた。
22:00お茶を飲みながら大人の時間だ。
私の彼と、妹と、私の3人でしゃべっていたのだが、私は今夜中に妹に渡す写真データをまとめたかった。妹はあす帰るので、それまでにUSBに入れて持たせたくて。私はその作業があるからと、パソコンがあるとなりの書斎に移動した。ドアを開けておいたので、なんとなく彼と妹が話していることが聞こえてくる。
妹が「お姉ちゃんはどうですか?」と聞いているので、慌てて耳を澄ます。
彼が「生真面目過ぎるほど、生真面目でね」と言い、妹が「わかる~!」と、盛り上がっている。「たった数百mの移動でも、後部座席のシートベルトをしないとお姉の車は発車しないんですよ」などと言っている。
妹は「お姉は、やきもちとかは焼かないんですか?」と聞いている。
彼は「そう。それがなくてね、とてもありがたく思っている」と答えている。
彼はバツイチなので、前の奥さんと話すこともあれば、子どもたちの部活の送り迎えもある。でもそうしたことに対して、私がさして気にしていないのが、とてもありがたいと。
面白いな。本人と直接話すより、第三者による取材の方がその人の本質が見えることがある。
妹は「でもお姉ちゃん、変なことで怒ったりしませんか?」などとも聞いている。
彼は「そうそう。時々理不尽なことで怒ったりして、何で俺がこんなこと言われなあかんの?と思ったりもするけど、なんだかんだ可愛いんだよね」と言っている。
ぶふふ・・・聞きましたぞ。「なんだかんだ可愛い」
リピートしよう。「なんだかんだ可愛い」
リピート アフタ ミー!「なんだかんだ可愛い」
聞き耳を立てている間に、写真の整理が終わった。
あすは、彼と「キラキラめだか」なるめだかを見に行く日だ。
温泉の朝ごはん&真夏日のうさぎ 2022年夏休み④
2022年7月28日(木)晴れ 加賀菅谷32.2℃
温泉の朝ごはんって、どうしてあんなに美味しいのだろう。
温泉卵とか、焼き魚とか、ちょっとしたものが、美味しくてたまらない。
温泉に入って、おなかを空かせて朝食会場に向かう。
夜と同様、料理長直筆の献立表があり、お料理の内容が記されている。
小さな器にちょこちょこと盛り付けられたおかずたち。
昨夜フロアの方に「料理長さんに美味しかったとお伝えください」と言っておいたからか、なんとテーブルまで挨拶に来てくださった。献立表はカラーの筆ペンで書いているのだと教えてくれた。
おかずや味噌汁はあらかじめテーブルに自分の分が用意されていて、飲み物やパン、納豆・海苔、ヨーグルトは、好きなものを好きなだけ取ってくる『ハーフバイキング形式』だった。
全部バイキングだと迷ってしまったり、取り過ぎてしまったり、色々難しいけれど、特定のものだけバイキング形式にするって、すごくいい!
本当に素敵なお宿だった。1泊2日で堪能すべきものは堪能した!という感じ。
アンケートに感謝の気持ちを書いておく。『印象に残った宿があればお書きください』という項目もあったので、これまで泊まった宿で印象的だった宿を思い出す。
◆星のや軽井沢(長野県軽井沢町)
これが私のトップ3かなという感じ。
他にも、山代温泉 吉田屋山王閣の離れの客室「松風庵」も素敵だったし、山代温泉 界加賀もよかった。
10:00にチェックアウト後、中谷宇吉郎 雪の科学館に行こうか?という話もあったが、姪っ子ちゃんにはまだ難しいかな、ということで『月うさぎの里』へ。
うさぎが放し飼いにされていて、手袋をはめた手で撫でたりできる施設だ。
しかしこの日の最高気温は加賀菅谷で32.2℃。
うさぎも暑そうで、日陰でぐったりしている。
このあと、母も熱中症のような症状になって元気がなくなった。
熱中症予防には『喉が渇く前に水分補給!喉が渇いてからでは遅い!!』ということを身をもって感じた。
夕食は石川県民のソウルフード8番らーめんへ。金沢に帰ってきたときしか食べられないからと、妹が希望したので。期間限定のトムヤムクンらーめん(パクチー増し)を注文する。8番らーめんがタイに出店して30周年の記念メニューらしい。
とっても暑い中、夏休みを満喫している気がする。さあ、あすは何をしようかー
はずれのソファーベッド 2022年夏休み③
2022年7月27日(水)晴れ 加賀菅谷30.7℃
夕食会場は1階のプールサイドダイニング。
ここで和食のコース料理をいただく。
妹は日本酒の飲み比べセットを注文し、しっぽりいくようである。
イラスト入りの献立表は、料理長自ら描いているようだ。
それを見ながら、次に出てくる料理をわくわくして待つ。
ゆっくり楽しむコース料理。大人はとても楽しいのだが、姪っ子は途中で飽きてきたようで、早くナイトプールに行きたいと言い始めた。
ただ、ナイトプールも21:00からじゃないと入れないので、いまはゆっくりごはんの時間を楽しむべきなのだ。
と、そこにスタッフが「お子様にお配りしています。お好きなものを1つ選んでください」と、おもちゃがたくさん入った籠を持ってきてくれた。
それを見た瞬間、妹と姪っ子が「あっ!ルービックキューブだっ!!」と叫んだ。
どうやら5月の連休ごろからルービックキューブが欲しくてたまらなかったらしい。
しかし、100円ショップにはなく、デパートで売っているものは高く、結局買わないまま今に至ったようだった。
他のおもちゃには目もくれず、姪っ子は3秒でルービックキューブを手に取った。
母と私は「他のおもちゃ、ひとつも見んかったね。もしかしたら他にも何かいいものあったかもしれんのに。今更ながら、他に何入っとったんか気になるね…」と、自分たちはもらえもしないおもちゃに思いを馳せ、食べたり飲んだり。
姪っ子は、ルービックキューブに夢中になった。
21:00。部屋に戻り水着に着替えて、ナイトプールに向かう。
ライトアップされたプールは昼間とは別世界。
プールにはノリのよいPOPミュージックが流れ、カラフルなライトは刻々と色を変えていく。
さっきまで眠そうだった姪っ子が、ばしゃばしゃと元気に泳ぎはじめた。
温泉に来てプールで遊ぶというのは、私にとってはなかなか新鮮な経験だった。妹にそう伝えると、子供連れの世界ではさほど珍しくないという。
22:30までたっぷりと泳ぎ、夕食前に入った本館5階の大浴場「樹林の湯」とは別の、別邸1階の浴場「森の出で湯」へ。
24:00までなので、それまで温泉を堪能して部屋に戻る。
妹が部屋の前のマッサージチェアを使っていたので、少し羨ましく思う。
あとで使おうと思いつつ、読書タイム。
そういえばベッドについてなのだが、ダブルベッドが2つ、ソファーベッドが1つだった。見た瞬間から、私はあのソファーベッドで眠ることになるであろうと確信していた。
妹と姪っ子はペアだから、ちゃんとしたベッドを使うだろう。
あとは母と私の椅子取りゲームならぬ、ベッド取りゲームだ。じゃんけんやくじ引きで決めてもいいのだが、私の方が若いし、ここで「私もダブルベッドがいい~」と主張するのは親への配慮がなさすぎるというものであろう。
私は自主的に「ソファーベッドでいいよ」と言った。寝心地は雲泥の差だろうが、別に私はソファーベッドでも十分眠れるのだ。日常生活でもベッドまで行かず、リビングのソファーベッドでうとうとし、そのまま寝落ちして朝を迎えることは日常茶飯事なのだから。
そういえば、妹・甥っ子・姪っ子のお泊り布団だが、3組あるうち1組だけがぺったんこの「せんべい布団」だったらしい。「誰がそこに寝るのか?」となったときに、妹は「腰がやられないように…」と早々にふかふか布団を確保し、姪っ子も「私だってふかふか布団がいい~」と譲らず、結局甥っ子くんが、いじけて泣きながら、せんべい布団で寝ることになったそうだ。まあ、女の世界にいるとそうなるであろう。
幼きうちからレディに譲ることを覚えるがよい。
さて「徹夜をしてこの温泉を満喫しなければ!」と息巻いていた私だが、日中も夜もプールに入り、貸し切りの竹林プールも入り、温泉大浴場も2種類入り、だいたい満足して徹夜どころではなくなってきた。午前1時半、もう限界だ。
部屋の前のマッサージチェアに行く気力さえない。
はずれのソファーベッドに横になって1分で寝落ちした。
翌日妹が「お姉ちゃん、何時に寝たん?」と聞いてきた。
私は正直に「1時半かな」と答えた。
「あーっ。全然徹夜じゃないじ!」と、笑われた。
お部屋をグレードアップ 2022年夏休み②
2022年7月27日(水)晴れ 加賀菅谷30.7℃
夏休みの帰省中、温泉に1泊しようという話が出ていた。
6月初旬、母・私・妹のグループラインで、どこに行くか?とミーティングが行われた。こういうリサーチに長けている妹が、A案とB案のURLを送ってきた。
A案はかつて私と母が泊まったことのある富山のリゾートだった。まあまあ高い。あのときも清水の舞台から飛び降りる気持ちで予約した。子連れじゃない方がいい気がする。
B案はまだ泊ったことのない石川の温泉で、気になっていた宿だった。未体験の場所の方がいいということで、B案に決定した。
妹が立て続けにLINEしてくる。「ちなみに夕食はスタンダード?それとも最高級の懐石がいい?3人で2万くらい違ってくる」と。
母と私は「スタンダードでいい。石川のごはんはスタンダードでも十分うまい」と返す。
すると妹は「食事に2万アップするのをやめた分、部屋をランクアップさせようかと思うんだけど…」と提案してきた。
この3人でいると、私が一番男っぽい。「お前らがそうしたいなら、そうするがよい。まかせた」という気分である。自分では絶対しないような贅沢な提案に、乗ってみるのもいいだろう。
「まかせた」と返信した翌日、妹から「予約完了。部屋は一番いい部屋にしたぜ。庭に直接出られるガーデンスィート!泊まるならこの部屋でしょう」と連絡が入った。
「いい部屋にしたぜ」と言ってみたり、「この部屋でしょう」と締めくくったり、言葉遣いのテンションがちぐはぐだ。
母がめっちゃでかい「いいね」スタンプを押している。「いいね、いいね、超いいね~。お金に糸目はつけないよ~」というテンションだ。私もラグジュアリーなところは好きではあるが、母と妹は私の30倍ほどラグジュアリーなところが好きな人種なのだ。
ちなみにB案の宿とは、石川県山代温泉にある『森の栖リゾート&スパ』である。
プールがあり日中も夜も入ることができる。フィットネスジムや、水着着用の炭酸泉・温水プールもあるようだ。ライブラリーラウンジに、セレクトショップ。本館5階の大浴場「樹林の湯」に、別邸1階の「森の出で湯」。妹が予約した特別室には、プライベート露天風呂もついているらしい。
もう…どこからどう攻略すべきか、右往左往である。
私は「こりゃ徹夜だわ」と言った。
ゴージャスな宿に泊まると、その全てを満喫したくなり、結局まったく休まらない。いつものことである。本当のお金持ちはこういうところで何気なくゆったりと過ごすのだろうが、私はそんな風にできたためしがない。
「プール行って、フィットネス行って、みんなが寝静まったらライブラリーで読書して…。どいね。プール、夜もやっとる!ナイトプールやって。温泉も3カ所もあるし、全部入らんなん。この湯上がりテラスって何よ!?あーっ。時間が足りん。徹夜だ、徹夜!徹夜しかないわ。温泉から帰ったら爆睡すればいいし」と、もはや温泉に休みに行くのか疲れに行くのかわからない。
母と妹は「お姉ちゃん、徹夜するんやって~。私らは適当に寝るけど」と言って笑っていた。
さて、森の栖リゾート&スパ。フロントが2階にあるので、エスカレータでロビーに向かう。もうこの時点から大興奮だ。15:00チェックイン。
係の女性が「お客様のお部屋は一番遠いところにございます。歩きますよ。みなさん迷われるんです」と言っている。
四季回廊と名付けられた渡り廊下をてくてくてくてく歩く。
別邸 木もれび 特別室368を目指す。遠い。確かに遠いぞ。てくてくてくてく…。
途中で別邸のお客様専用のラウンジも案内される。
ドリンクバーやチョコレートが準備されている。母は案内されているときに、そのチョコレートをつまんでぱくっと食べたのでぎょっとする。「うふふ。奥様、よろしいですよ」と言われている。ふゎあ。また「行くべき場所」が増えてしまった。
特別室368。何というか…家である。
ダブルベッドが二つ並ぶベッドルーム、リビングルームにはロッキングチェアーなども置かれている。大きな窓から光が降り注ぎ、出ると私たちだけのプライベートガーデンが広がる。トイレも2つある。朝の使いたい時間帯は重なるので、これも重要なポイントかもしれない。
「うわ~!すごい、すごいね」と、写真を撮ったり、部屋の隅々までチェックする。
姪っ子が「早くプールに行こう」と、ごね始めた。
16:00ごろからプールタイム。
姪っ子はばしゃばしゃと元気に泳いでいる。スイミングスクールに行っているからか、とても上手だ。
私も妹からゴーグルを貸してもらい、いたずらに潜ってみたりする。
母はプールサイドで手を振っている。
みんなで利用するプールも楽しいが、17:00~18:00の1時間は貸し切り温水露天プールを予約してある。そこにも行かねば。いそいそと移動だ。
竹林が借景になっている温水露天プール、炭酸の丸いお風呂もある。
水温が高くプールというより温泉のようでもあるが、水着着用で利用するスポットらしい。本来は共用スペースなのだが、コロナ禍のため1グループ1時間と区切り、予約制の空間になっているのだ。
ヒグラシの鳴き声に耳を澄ます。何て素晴らしい空間なんだろう。
18:30から夕食なので、残り30分で温泉に入って、夕食会場に向かわねば。
忙しい、忙しい…!予想していた通りの分刻みスケジュールだ。
2022年夏休み③に続く
魅惑のナイトバイキング 2022年夏休み①
2022年7月26日(火)晴れときどき曇り 金沢31.9℃
「ぶどうの森のサマーナイトバイキングを予約したよ」と、妹から連絡が入った。
バイキングに「サマーナイト」が付くと、さらに甘美な響きに聞こえるのは私だけだろうか。よくよく考えれば、夏の夜にバイキングを食べるだけの話なのだが。
3年ぶり、行動制限なしの夏。
妹と甥と姪が金沢にやってくる。
私も1週間余りの夏休みをとるべく、やるべき仕事や雑用をブルドーザーのような勢いで片付けてきた。
この里帰りのメインイベントは、山代温泉 森の栖リゾート&スパへの宿泊だ。
その前日にナイトバイキングで前夜祭。バイキングなんて久しぶりの私は、これもひとつのイベントとしてとても楽しみだった。
17:00予約。お昼を抜いておなかぺこぺこで行こうと、みんな息巻いている。
イタリアンカフェぶどうの森のバイキングは、まずサラダが出てきて、それを食べながらオーダーを決めるというスタイルだった。テーブルオーダー制で、時間制限は90分。
メニューは、大海老の石窯焼きに、チキンのトマト煮込み、サイコロステーキ、パスタ各種、ピッツア各種、オムライス、アイスと、デザートも含め約30種類。
バイキングの達人である妹が中心となって、メニューを決めていく。
参加者は、シニア割引料金の母と、私、妹、姪の女性4人だ。
バイキングって好きだけれど難しい。後悔ないよう色んな種類の料理を食べたい欲はあるが、調子に乗って頼みすぎるとおなかが爆発する。
妹は無類のバイキング好きのようだ。特に出産直後や、子育て中はバイキングに行きたくて行きたくて仕方なかったという。自分では絶対作れない種類の料理が、一気におなか一杯食べられる幸せは、何ものにも代えがたいという。
妹はバイキングにまつわる名言を次々に繰り出してくる。
「バイキングは気を遣ったらおしまいねんて。食べ放ちに行くんやから」
えっ、何々!?「食べ放つ」って何??すごいワードである。これまでの人生で使ったことがない。
さらに「子連れのバイキング仲間は戦友なんだよ」とまで言うではないか。
ママ友とバイキングに行くときは、1分1秒も無駄にせぬようママ同士で強力なタッグを組み、子どもを見る役、料理を取りに行く役を交代で行い、とにかく食べたいものを食べ放つらしい。「子どもの前には、ポテトとウインナーを山盛りにして大人しくさせる」というママならではの裏技まで教えてくれた。なるほど。今後、役に立つことはなさそうだけれど、なるほど。
ラストオーダーの時間がきた。
店員さんが「きょうのアイスは、バニラアイスと、檸檬シャーベットでございます」という。
母と私が「どっちがいいかね~」と悩み出すか出さぬかのタイミングで、妹が「両方、それぞれ4人分お願いします」と言った。
そうだ、これはバイキング。別にどちらか選ぶ必要もないのだった。
冴えわたる妹の采配で、実にバラエティー豊かなバイキングを楽しめた。
結局4人で約30種類中、9皿の料理と2種類のアイスを食べたことになる。
※せっかくなので、すべて載せます⇓
大満足のバイキング。帰り際店員さんが、向こうの方に丘がありますからお散歩したらいいですよ、と教えてくれた。
ぶどうの森では、約10年前から周辺の耕作放棄地を、農園へ再生する活動を始めている。「ラシェットプロジェクト」と呼ぶらしい。確かに周辺は人の手が入った、すばらしいエリアに生まれ変わっていた。
夏休み1日目、妹のバイキング魂に触れた鮮やかな幕開けだった。
2022年夏休み②につづく